novel | ナノ

ロマンチックに映像がふんわりとフェードアウトし、画面が真っ白になる。私がほうっとしたため息をこぼしたとほぼ同時に、となりに座っていたユウキくんがくわっとおおきなあくびをかましたものだからぎょっとした。


「…ユウキくん」
「んー?」
「映画ちゃんと見てた?」
「ちゃんとって…見てたよ、当たり前だろ」


失礼だな、と口を引きむすぶユウキくん。こんな反応をするときは大抵、半分図星をつかれているからで、つまり見てはいたけどつまらなかったんだろうな。

巷で有名なラブロマンス、本当は映画館で見たかったんだけど、やっぱりDVDで正解だったかもしれない。私はとても楽しめたけれど。

お茶でも煎れようかとユウキくんがまたあくびを噛み殺しながらソファを立つ。それに相づちを打ちながら追って立ちあがる流れがとても自然なのにふと気がついたけれど、なんだかくすぐったくて知らないふりをした。

ふたりで並んでキッチンに立つのも、もうずいぶん慣れてきたんじゃないかななんて、素敵なラブストーリーに酔った思考が甘くうずいた。


「昨日寝てないの?」
「いや、寝たけど…オレ、昔から寝つき悪いんだよな」
「そう、なんだ」


こぽこぽと心地の良い音をたててお湯がティーポットに注がれる間、手持ちぶさたな私はティーバッグの残骸をいじる。

しあわせなはずなのに、さっきまでしあわせで仕方なかったはずなのに、ぽつりと黒い墨みたいに落ちてくる不安は何なんだろう。知っているユウキくんの知らないところはこれからたくさん、たくさん、いくらだって出てくるのに。

ずっと、それこそ生まれてからずっといっしょにいられたら、私はユウキくんのすべてを知れたのかな…?それともやっぱり、すべてを知るなんて無理なのかな。

それならどうしてこんな気持ちになるんだろう…神さまってたまに、本当に意地がわるい。


「どうかしたのか?」
「えっ?」
「しわ寄ってるぞ、ここ」


ほら、とユウキくんは自分だって眉間にしわを寄せながら私の眉間をつっついてくる。あたりをふんわりと包むのはフレーバーティーのやさしい香りで、いじっていた紙くずを捨てていつのまにやら落ち切っていた砂時計を棚に戻したあとには、ユウキくんの煎れてくれたすこし薄めの紅茶入りマグカップが差し出される。

ユウキくんがマグを運ぶんじゃなく煎れ終わったその場で私に渡すのも、私がミルクを入れないのもいつものはなし。何の変哲もないはなしだけど…そうだ、私たちのものがたりにハッピーエンドは約束されてない。

何考えてるんだよ?とユウキくんが訝しげに首をかしげる。私は迷って、一度くちを開いて、閉じて、またひらいた。


「ユウキくんは、…このまま研究者になるの?」
「まあ…そのつもりだけど…。オレが研究者になるのが不満なの?」
「えっ!?」


そんなこと、一度だって思ったことなかった。

びっくりしてとなりを仰ぎ見れば、ユウキくんのひとみはちょっと不安そうにゆれていた。身長だって将来の道だっていつのまにか大人みたいに大きくなっていたユウキくんだけど、なんだかそのひとみは迷子の子どもみたいに頼りなさそうに見える。

博士号を取るために、お父さんであるオダマキ博士の助手をしながら勉強に励むユウキくんは忙しいから、こうやってたまの休みをゆっくり過ごすのがとても楽しくて…、だけどその反面、ただばたばたと忙しなく日々に流されている自分に自信がなくなってしまう。

だから、久しぶりに見たユウキくんの子どもらしさに安心してる…なんて言ったらきっと、同い年だって怒るんだろうけど。


「私は、白衣着てるユウキくん格好いいと思うよ」
「……ふうん…ならいいけどさ」


格好いい、って言ったとたんに目が泳ぎだすユウキくんに、私の現金なこころはまたふんわりとしたしあわせに包まれる。

映画のストーリーみたいに未来が約束されてなくても信じられるのはたぶん、こうやって笑いあう日々があるからなのかもしれないなんて…、やっぱりロマンスに浸ったままの思考に陥りながら、また紅茶に口をつけた。
110929
Thanks;ace
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