novel | ナノ

私たちの憂うつをあざ笑うようにきれいに焼けた夕空の下、ついさっきじゃあねと手をふって別れたるりちゃんと堀木が仲良く肩をならべて歩いていく。

教室が3階にあるせいか、校門からでていくふたりが切り取られた窓枠からはっきりと見えた。


「あーあ、なんか気に入らないなあ」
「…何が?」


向かい合わせにした机になっちゃんがだるそうに突っ伏したから、私は仲むつまじげなカップルから教室に視線をもどした。塩素で色素の抜けた薄茶の髪の毛が、ちから強いオレンジに染まってきらきらしている。

広げた化学のプリントのうえでなっちゃんがもぞもぞとあたまを動かした。あらわれた片目が、戻した私の視線とぶつかる。


「るりのこと」
「……えっ?」
「だから、るりと堀木のこと。気に入らないなあって」


思いがけないなっちゃんのことばに、もともと半分だって占めてなかった化学のことなんてあたまかから吹っ飛んでしまった。せっかく先生に教えてもらった解き方も、考え方も、公式でさえも。

私が緊張したのがわかったのか、なっちゃんはむっくりと身体を起こした。試験範囲のプリントにしわがよっているのを直すようにうつむいて、けれど何も言わない。私もかけることばが見つからなくて、なっちゃんの意外なほどしっかりした指先がぐしゃぐしゃの線をなぞるように何度か動くのを見つめていた。


「気に入らないって……どうして」


火ぶたを切ったのは私だった。

あまりになっちゃんがだんまりになるから沈黙が痛くてしかたない。今までは、こうやって人気のない教室でふたりで勉強をしたことはあっても、沈黙になんてならなかったから。…あるいは、それがグリーンだったから…?

うん、きっとそうだ。違和感が消えないだけ。だからこんなに嫌な予感がするだけ。ちがう、絶対にちがう。

ぐつぐつとわき上がってくる不安を何度も何度も打ち消して、なっちゃんの垂れた前髪を見つめる…まるで、祈るみたいに。

だってなっちゃん、私といっしょになってるりちゃんの鈍感さとかに呆れたりしてたし…。

なっちゃんの爪先が、最後のしわを引っかいて止まった。それからゆっくり視線が上昇してきて、茶色い光彩がはっきりと私をとらえる。

なっちゃんは、にっと笑った。


「だってさー、堀木のやつ私たちからるりをかっさらって行ったんだよ?」
「……部長が?」
「そうだよ。もちろん、るりがしあわせなら私はいいんだけどさ、何て言うか…るりは堀木にはもったいないって思うわけ!」


ね、そう思わない?

なっちゃんが身を乗りだすようにして指を突きつけてくるものだから、今度は私がぐったりと机に突っ伏したくなる。ちからなく笑みを返したら、なっちゃんはむっとしたらしくあっ、こら本気にしてないでしょ!とさわぎだす。何だかだんだん、本当におかしくなってきた。

テスト前、いつもの教室にいない私をグリーンは探してくれるかな、なんて……賭けなくてもわかりきったギャンブルに賭けるような趣味はないから、これを薄めてくれるなら、それが悲しみでも焦りでも、不安でも、哀れみでもなんでもよかった。

だけど、こうやってこころの底からの可笑しさで薄めてくれるのは、なっちゃんだからかもしれない。わけもなく笑いだした私につられるようにくすくすと笑いだしたなっちゃんのこころも、ちゃんと薄まっていたらいいのに。
確かに恋だった/110823
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