novel | ナノ

日本の秋は寒暖がはげしくて、空気がかわいている。あんなにむわっとしている夏とは大ちがいで、ちがいすぎて体調を崩すひとも多いみたい。今日も、この更衣室人口からすると何人かやすみのひとがいるんだろうな。

だけどいまこの場でこんな場ちがいのことを考えてるのはたぶん私くらいで、大体のひとのあたまは着がえる手を動かしつつ、るりちゃんが吐露させられているのろけ話に夢中だった。

水着をとられてしまったるりちゃんは今だ制服のまま、モデルさんみたいにちいさな顔をわずかに赤くさせながらぽつぽつとことばを落としていく。内容はもちろん、つい昨日片づけが終わった一大イベントの出来事だ。


「で、で?そこで堀木はなんかやったわけ?」
「なっ、何にもしてないよ!」
「赤くなってあやしいなあ…」
「何にもないってば!」


ぶんぶんと首と手をふるるりちゃんを横目で見ながら、なっちゃんはさっさと着がえを進めていく。さすが、女子のまとめ役兼、水泳部のお母さん。帽子とゴーグルを肩ひもに挟み、クリップボードとタオルを小脇にかかえると、なっちゃんは端っこでるりちゃんを問いつめてる二年生を容赦なく、ばしりと一括した。


「二学期最後の部活なんだから、時間見てしっかり行動しなよ」
「は、はいっ」


びくりと反応した数人の女の子を一瞥して、なっちゃんはすっと更衣室をでていく。相変わらず水着を着るとすこしだけ性格がするどくなるなっちゃんに、るりちゃんと目があった私は苦笑いをする。るりちゃんははにかむような笑顔をこぼし、奪われていた水着をもって私のとなりへやってきた。

長いさらさらヘアーを手早くひとつにくくりながら、まだ血のひかない頬でつぶやく。


「みんな、私たちのはなしなんて聞いて何が楽しいんだか」
「んー…楽しいって言うより、しあわせをわけてもらえる気がするんじゃない?」
「そういうものかなぁ…」
「たぶんだけどね」


釈然としない様子でてきぱき着がえをはじめたるりちゃんに、私のくちびるに浮かぶのはまたしても苦笑いで。女の子はみんな恋のはなしを聞きたがるけど、もともとるりちゃんはそういうのににぶい子だったし、なっちゃんはああだし。私だって、興味がないって言ったらうそになる。だけどあのことは、誰にもはなせないままだし。

逃げるようにすばやく着がえを終えたるりちゃんといっしょにプールへ向かう。明日からまたテスト1週間前だなんて、この学校の年間行事予定はハードすぎる。文化祭の準備のせいで、ただでさえまともに水につかるのは久しぶりなのに。


「私ね、なまえとかなっちゃんとかにはなすのは全然いやじゃないんだけど…見せものになるのはいやだなあ」


屋内プールといえど、さすがにシャワーはつめたくてぶるっと大きく一度、身体がふるえてしまう。るりちゃんがつぶやいたのはその一瞬で、私がはっとしてるりちゃんをふり返ったときには、先に来ていたなっちゃんが私たちに声をかけた後だった。


「るり、なまえ、今日はとりあえずタイム測定するから準備しといて」
「あっ、はーい了解です!」
「…了解です」


元気よく返事をしたるりちゃんが、シャワーをとめてふり返る。

とっさに目をそらしてしまったのを誤魔化そうとして帽子をかぶったら、なんだかあたまが締めつけられる気がした。身体中をつたうしずくが気持ちわるい。
ace/110821
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