novel | ナノ

黒々とした闇のグラウンドに特設されたステージはオレンジのライトで照らされ、どこか毒々しく見えた。浮かされたような熱気はひくどころかますます強まって、こわくなるくらいに私たちの脳に燻っている。

ギター、ベース、ドラムの最後の一節が鳴りやみもしないうちから、わぁーとかきゃーとか、悲鳴にも似た歓声があがる。それに答えるバンドメンバーはみんなきらっきらした笑顔で、見ているこっちもぐっとテンションを上げられるような魔法がかかるほど。

ありがとうございました、Landsのみなさんでしたー!とナレーションがシャウトする。あの男子、たしか隣のクラスのひと…?あれ、後夜祭って3年が主体なはずなのに…なんで2年生がナレーションやってるの?


「ねえ、司会者ってふつう3年生じゃないの?」
「あー…まあ、あいつは天職なんじゃない?ああいうのが」


どこか冷めたように答えてくれたなっちゃんの横でるりちゃんが、彼、東城くんの志望はアナウンサーなんだと教えてくれた。なるほど、道理で…。

投票で見事1位に輝いたバンドはやっぱり桁違いのパフォーマンスをしてくれて、後夜祭は大いに盛り上がっている。軽音部のメンバーだから上手いのは当然なんだと思ってたら、うわさでは本気でメジャーデビューをねらっているグループだったらしい。にこにこしながらそう解説してくれた同い年のナレーターだけど、そういう東城くんも放送部ながら、なかなか様になってる。


『さて、おつぎはおまちかね、表彰のお時間です』


マイクで拡張された東城くんの声に、いいぞー東城、とか、わーい!とか合いの手が入る。それににこにこと応えた東城くんのうしろから、見なれた文化祭実行委員長が、なぜか着ぐるみにつつまれた格好であらわれたものだから大爆笑がわき起こった。


『えー、みなさんこんばんは。実行委員長でおなじみの南方です』
「南方―!!!」


最後の学年、最後の学校行事。三年生がわあっと沸いた。まるで3年生ぜんいんが呼んだんじゃないかってくらい大きな声に、委員長は一瞬顔をゆがめたように見えたけど、いったんマイクをはずしておう!と応える。それにまた大きなうねりが起きる。

ふしぎなくらい大きなエネルギー、正体の見えないちからが、私たちをぐんぐんとつき動かしていくようだった。あたまのなかがふわふわして、なにも考えられない…。

クラス企画、出店企画、クラブ企画などひとつひとつの項目ごとに、全校生徒やお客さんからよせられた清き1票。封をされた封筒を切る委員長も緊張しているみたいだった。恒例としてこういうのはだいたい3年生のクラスで埋められるのが当たり前だったし、私たちも先輩たちが大よろこびで泣いたり笑ったりしているのを見るのが嫌いじゃないから、1、2年生にとってはあまり緊張したりはしないけれど。

かたん、とマイクがひろったノイズが、静かになったグラウンドにひびく。


「…あれ、グリーンは?」


どれくらい離れた場所から聞こえてきたのか、私の耳がアンテナみたいにそのつづりをキャッチした。…ちがう、タイミングが悪かっただけ。だってみんな、結果発表のために息をひそめていたから。

こころの準備も何もなかった。ふと気がついたように怪訝そうな様子をふくんだその声をふり返れば、特進クラスでもグリーンとトップを争うという、やけに背の高い男の子がきょろきょろとあたりを見まわしていた。一方、その疑問を向けられた相手はステージに夢中みたいで、ちょっと嫌そうな顔をして、背の高い彼をふり仰ぐ。


「しらねーよ。よろしくやってんじゃねーの?」
「よろしく…?…ああ、そうか」


なるほどと納得したような横顔がやけにはっきりと脳裏に残ったのは、同時にぱっとステージライトが明るくなったから。

それ以外に、理由なんてあるわけない。
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