novel | ナノ

ダイゴさんには赤い薔薇が似合う。

今どき赤い薔薇の花束って流行らないし、もはや寒気の対象にすらなり得るかもしれないのに、なぜだか初めてダイゴさんに会ったときからずっとそう思っていた。ダイゴさんなら、赤い薔薇の花束も、違和感なく付属させることができるんじゃないかって。

私のあたまのなかって、実はそういう趣味があったのかな…そうは思いたくないんだけどな…。


「どうしたの、ぼーっとして」
「あっ…すみません」
「いや、べつに僕はかまわないけれどね」


今日の仕事は、デボン社のパーティ準備。デボン社の所有するという高級ホテルの大広間に、たくさんの白いテーブルクロスをかけた丸テーブルを置き、そこに花を配置して。

デボン社のパーティをうちの会社が取り仕切るのはこれで何度目だったかな…。思えば、ダイゴさんと初めて出会ったのも、こんな仕事関係からだった。

てきぱきと私の先輩方や、ホテルマンのひとたちに指示をだしているダイゴさんを尊敬しながら、私もテーブルの花のセッティングをしているはずが、ぼーっとしてしまったみたい。

ついさっきまできびきびしていたダイゴさんが目の前にいるものだからびっくりした。けれどそれよりも、だいすきなこの仕事を、うわのそらでしてしまっていたことをダイゴさんに知られたのが恥ずかしい。彼はくすくす笑っているけれど、私にとってはあこがれの仕事人なんだから。


「でも、めずらしいね。きみが仕事中にぼーっとするなんて」
「…それは…すみません」
「謝らないでよ。きみは僕の部下じゃないし、僕はきみの上司じゃない。たんなる秘密の共有者だ」
「秘密、の共有者…?」


思いがけないことばにきょとんとすると、ダイゴさんはとてもあでやかに微笑んだ。

不意打ちだ。何のこころ構えもなかったぶん、どくり、と心臓がおおきく脈打つ。それを知ってか知らずか、ダイゴさんは私の持っていた赤い薔薇をとりあげた。


「あっ、ダイゴさん、それ」
「ちょうど、今夜のボタンホールが空になるところだったんだ」


きれいにとげ抜きを終えたそれは、しわひとつないブルーグレイのスーツのホールにぴたりとおさまる。私はおもわず息をのんだ。

シックな深い赤茶を基調にした床、真っ白な壁。コントラストがあまりにも絵になりすぎて、ダイゴさんの微笑みから目がはなせない。…仕事中なのに、何をやってるの私…!


「どう、似合うかな?」
「はい。とてもよく…」
「よかった。じゃあこれ、もらっていくよ。代わりの花は内密に、すぐ届けさせるから」


真っ白なテーブルの向こうから色彩をとびこえて、新しい仕事がやってくる。角砂糖を数えて、お菓子を盛りつけて、そこにもなにか花を飾って。

あわてて返事をしながら指先がえらんだのは真っ白なミニバラの花で、それを見たダイゴさんがおかしそうに笑った。


「きみは、薔薇がすきなのかな?」


20110723~110806
ロゼッタのささやき/lamp
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