novel | ナノ

肩痛い、と思わずつぶやいたら、タケシがにっこり笑って腕まくりをするものだからぎょっとした。


「肩揉みしてあげるよ」
「え、や、いいよそんな」
「遠慮するような間柄でもないだろう?」


だってタケシは大切なポケモンのケアをしてあげてたわけだし、今日も相手がいっぱいで大変そうだったから絶対つかれてる。

私はと言えば、タケシが真剣な顔でバトルするのをこっそり応援する傍ら、ジムのモップがけをしてたくらいで何もしてない。

そう言ってるのに、ほらと半ば強引に、タケシは私を審判用の椅子に座らせた。

昼間みたいに明るくなるライトをはんぶん消しているから、フィールドは数時間前とは正反対の顔色で私たちを見つめる。

肩に添えられたタケシの手を、ばかみたいに意識した。


「…わ…!」
「ごめん、痛かったか」
「ううん、すごく気持ちいいからびっくりした」
「そうか」


それはよかった、と笑うタケシの顔がみえないのが、すごくくやしい。きっとやさしい顔をしているっていうのは、うぬぼれではないはず。


「…こうしてると、小さいころを思いだすな」
「小さいころ…?」
「よく、両親の肩たたきをしてたんだ」
「そっか、だから上手いんだね」
「そうかな」


ちょっと悩んだ様子で手がとまったのを見計らって、私はすたっと立ちあがるとくるりと身を反転させた。

私のとつぜんの行動にびっくりしているタケシの背中を押して、おなじ椅子に座らせる。

まねをして腕まくりをした私の意図に気づいたタケシがほほえんだ。


「今度は、交代ね」
「したことは数えきれないけど、してもらったことはなかったな」
「えっ、そうなの!?」


うなずくタケシの肩に手を置くのはすこし緊張した。ゆっくり、凝りをほぐすように、そしてタケシの手を思いだしながら、それをなぞるようにちからを入れていく。


「…ありがとう」


気づかないうちにかなり真剣になっていたみたいで、とつぜんタケシに片手を取られて、ぐっと前に持っていかれてはっとした。

ちゅ、と指先にぬくもりが触れて、とたんにかあっと身体があつくなる…私、たぶんまっかになってる。

ふり返ったタケシが、やっぱり何も変わらずにあたたかく笑った。

…やっぱり何にしたって、私がタケシにかなうわけ、ない。


20110713~20110723
くすぐったいよ/lamp
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