あいつの鈍さは超一流だと思う。 そう言ったらリボーンにあっさり言い捨てられた。 『いまさら何言ってんだ。なまえが鈍いことなんて、オレは初対面から知ってたぞ』 『何でだよ』 『男の勘だ』 リボーンは口元に涼しげな笑みを浮かべて、目深くかぶったボルサリーノの影ごしに、オレを見た。小馬鹿にした視線が、やけにオレに突き刺さる。 『いつまでしり込みしてんだ、情けねぇな。それでもボンゴレ10代目か』 悪かったな、とオレはリボーンから目をそらした。これでも、オレはオレなりに機会を狙ってるんだ。最後はきちんと言うつもりでもいる。 だけどやっぱり、賭けるからには下調べというか、勝率というか、そういうのが欲しいじゃないか!! そう言ったらリボーンは一言、 『腰抜けの言うことだな』 と吐き捨てた。 いじけるわけでもひがむわけでもないけど、かなり頭にきた。リボーンにオレの何が分かるんだ。なんでもパーフェクトで見た目まで良すぎるリボーンと違って、つい最近までダメツナだったオレに、根拠なしで告れる自信なんてあるはずもないじゃないか。 そもそも何があったのかと言えば、今日はオレとなまえの(ちなみに京子ちゃんと獄寺くん、山本も)通う並盛北高校で、いつかもやったような女子のみの調理実習が行われたのだ。 例にもれず、それを男子にプレゼントするというモテない男子にとっては地獄の恒例行事…というのも中学生までのはなしで、オレはなぜか、自分で言うのも何だけどそういう行事では恥ずかしくも困らなくもなった。 まあ、ただひとつのわずらいをのぞいては。 オレとなまえは、高校入学の初っぱなから別のクラスだから仕方ないかもしれないけど、自由時間なはずなのに出入口になまえの影が射すことはなかなかなくて、オレはわずかな焦りと期待でふたつ隣のクラスまで様子見に行った。 そこで見たのは、仲良さそうに談笑する山本とあいつの姿で、オレは一気に不機嫌になった。 「あ、ツナ!」 「よっ、どした?」 戸口で不機嫌オーラを発するオレに先に気づいたのはなまえで、つづいて山本がのんきに笑った。いつもならほっとする笑顔なのに、今日はやけに気にさわる。…最低だ、オレ。山本にはいつも相談にのってもらってるのに。 「なまえ、ちょっといい?」 「え、何?」 「いいから来て」 「でもあの、時間が…」 「いいから」 つかつかと歩み寄って強引に手をひいた。山本は何も言わずに見送ってくれたけど、オレの腹の虫はおさまらなかった。 なかば無理やりにつれてきた屋上への出入口前の階段。ここは本来立ち入り禁止だから滅多に人が来ない、絶好の場所だ。 「ツナ、どうしたの?なんか機嫌悪いね」 「…なまえ、おにぎりは誰にあげたの?」 「おにぎり?」 びっくりしたように目を見開いたなまえは、急に笑いだした。 「私のクラスはもう二時間先だよ!ツナ、何言ってんの?」 「へ?………あ」 度肝をぬかれたオレは放心し、それから脱力した。そっか、いくら何でも全クラスが合同でできるはずがないんだ。 とつぜん座りこんだオレに、なまえは尚も笑いながら尋ねる。それはあまりにもズレた問いで。 「そっかぁツナ、そういえば昔もおにぎり争奪戦で頑張ったって聞いたし、おにぎり大好きだったんだよね。大丈夫、私はちゃあんとツナにあげるから。足りないかもしれないけど一個もないよりましでしょ。安心してね」 気付けバカ! (喜んでいいのか、悲しむところなのか…) 「悩みどころだな」 「うわ、リボーン!!」 「あ、もちろんリボーンももらってくれるでしょ?」 「しょーがねーな」 「お前ムカつくな!」 Thanks;逃避行
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