novel | ナノ

※京子視点


最初から、予感はあった。

ツナくんと仲良くなったきっかけだって、やっぱりもとをたどってみれば彼女がいたからで、彼女が私に声をかけてくれなければ、一緒に遊園地に行かなければ、私はツナくんと話したことさえないまま卒業してもおかしくなかったと思う。

あの頃、私は…正直に言えばあんまり男の子に興味がなかった。男子も女子もなくて、ただ私の中には友達かそうでないか、それくらいしか、同年代の人を区切るものがなかった。

だからなまえちゃんに、ツナくんと友達なの?と聞いたとき、彼女が首を振ったことにびっくりした。


『ちがうよー、あいつとは腐れ縁というか何というか…いわゆる幼馴染だよ』
『幼馴染って、友達とはちがうの?』
『んー…もっと気楽な仲っていうのかな…?よく分かんないけど…友達、って言葉は当てはまらないかもしれないなぁ…』


ちょっと小首をかしげ、それからなまえちゃんは急にぱっと笑った。満面の笑みはさながら花が開いたようで、私は同性なのにどきっとしてしまったほどだった。


『京子ちゃん、もしかしてツナのことが気になるの?』


思ってもみなかったことを聞かれて戸惑う私の返事をなまえちゃんはにこにこしながら待っていた。なぜ彼女がそんなに嬉しそうなのか私が知る良もなく、それから毎日考えて考えて、

……私は生まれて初めて、男の子を「男子」として意識しはじめた。

そんな大切なことまで私は彼女に頼り切っていたから、かなり長いこと気付かなかった。

なまえちゃんが、その魅力に気付いた人にとってはとても魅力的な女の子なのは知ってたけど、ツナくんとふたりでいるのはとても自然で、自然すぎて……。

ううん、気付かないふりをしていただけかもしれない。

それに、たしかに初めは…初めのうちは、あの恋、ツナくんが私に向けてくれていた目は本物だったんだ…。

何がきっかけなのかは分からない。けど私が臆病で尻込みしているうちにいつの間にか、ツナくんの瞳に別の色が交じるようになったことに気付いた。目が合うことが減り、彼の視線の先にはなまえちゃんがいることが多くなった。


ほんのわずかな差、けど私にははっきりとわかる差だった。

つらくてつらくて…けれど憎むこともできなくて、私は今日もただ笑ってふたりを見送る。家が近いふたりが、一緒に帰っていくのを。

振り返らないと決めていたのについ振り返ってみると、曲がり角に差し掛かったふたり、彼女に笑いかけるツナくんの瞳が綺麗で懐かしくて、私は立ち尽くした。

一瞬後、なまえちゃんとツナくんは、曲がり角の向こうに消えた。

青ざめた太陽
実らなかった、ちいさな初恋。
thanks;揺らぎ

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