novel | ナノ

「願いごとポケモン?」


いかにも怪訝そうな顔をしたユウキくんは、想像にもれず、いるわけないだろそんなポケモン、とうわさを一蹴した。

涼しい店内で、うっすら水滴をまとった背の高いグラスがからんと笑う。

ユウキくんのグラスから聞こえるかすかなしゅわしゅわに、私は顔をしかめた。


「いるんだってば」
「ふうん…証拠は?」
「ないけど……」
「じゃ、話にならないな」


そういう話をするときは証拠くらい探してきてくれないとさ、とユウキくんがぶつぶつつぶやくけど、私は自分のストローに口をつけることでそれをかわした。

いつもならまじめに聞くんだけど、学者モードになってしまったユウキくんの話は私にはわからないし、今はそのはなしをしたくない。

うす暗くなってきた窓のそとでは、きらりといちばん星がひかっているっていうのに。


「…ユウキくんって、ロマンがわかってないよね」
「え?」
「ふつう男の子のほうがロマンチストなんじゃないの?」


頬杖をつきながら麦茶の入ったグラスをかるくでこぴんしたら、思いのほかきれいな音がした。

ちょっと黙ってしまったユウキくんが、やがてあきれたようにちいさくため息をついて立ち上がる。


「……たいがい意地っ張りだよな、お前」


カフェを出たら、昼間よりはすこし涼やかな空気を泳いできた手に手がつかまって、そのままひっぱられて人ごみを歩きだす。

ユウキくんに言われたくないなって思ったけど、きっとこれだけで顔が真っ赤なんだろう私が意地っ張りなことなんか、否定できるわけがなかった。


「…ユウキくん、」
「なんだよ」
「もし願いごとポケモンが存在するとしたら、なんて願う?」
「…絶対お前の方がロマンチストだよ」


面倒くさそうに言ったくせに、手をつなぐちからをぎゅうっと強くされる。

今日いっしょに過ごせるならそれでいいや、なんて思えてしまうのは、ユウキくんの言うとおり私がロマンチストだからなのか、それとも願い星がすなおにさせてくれたのかな。

意外なほどあたたかい手を握り返したら、ユウキくんの横顔はすこし赤くなっている。


201107~
宇宙に恋したバンビ/lamp

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