novel | ナノ

突然けたたましく鳴り響いたポケギアに、私は飛び上がった。

恥ずかしくて小走りでフレンドリーショップを出て、ディスプレイに表示された名前を見たとたんに、きゅっと胸の奥が縮んだ。


「もしもしっ」
『…なまえ?』


この頃は、こうして受話器ごしに、耳元でぽつりと名前を呼ばれると、嬉しくて、恥ずかしくて、矛盾だらけの不思議な気持ちになる。


「はいっ」
『いま、どこ』
「ええと、今はジョウトにいます。フスベシティって、分かります?」
『知らない』
「シロガネ山の西にあるんですけど…」


説明しようと頭のなかに地図を広げたら、電話の中で彼、レッドさんはくすりと笑う。それにびっくりした。最近、彼はよく笑う。

電話は多くても、実際会うことは少ないから、彼の笑顔はまだ、二回しか見てない。こういうとき、とても会いたいと思ってしまう私にまた、私はびっくりするんだ。


『いいよ』
「え、でも…あ、シロガネ山へはそんなにかかりませんよ」
『…』
「レッドさん…?」
『なまえ』
「はっ、はいっ!!」


電話はもうたくさんしてるのに、未だにレッドさんの感覚は読めない。また唐突に名前を呼ばれて、変な答え方をしてしまった私に、レッドさんは生真面目に、


『待ってる、』


熱のこもったような、そんな爆弾を投下した。

どこで、とか、いつ、とか何も聞かないうちに、レッドさんはぷつりと電話を切ってしまった。

ツー、ツー、という停止音は聞こえたらしく、隣であくびしていたバクフーンが、そのまま固まってる私にいぶかしげな視線を向けている。

と、とりあえず…行か、なきゃ。レッドさんが待って…

……。………


「どうしようバクフーン…!」


心音が激しいうえに、膝に力が入らない。フレンドリーショップの前なのにふにゃふにゃと座り込んでしまって、これじゃあまるで変な人だ。
びっくりしたようなバクフーンが、あわてて私を抱え上げ、近くの広場へ運んでくれた。


「ありがと…」


バクフーンは心配そうに見つめてくる。その赤い瞳からレッドさんを連想して、さらに私は恥ずかしくなる。
大体、走ったわけでもないのにどうして、私はこんなにばくばくしてるんだろう!?酸欠?


「っ、ピジョット、出ておいで!シロガネ山まで行くよ」


ピジョッ!と元気よく出てきたピジョットは、座り込んでる私と、なぜか呆れたみたいな私の相棒を見て、首をかしげた。
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テーマ「推しとの恋」
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