novel | ナノ

事態がこんがらがったため、私たちは美男さんの提案で、とりあえずポケモンセンターの食堂の一角をお借りして、お茶会をすることになった。


「あらためて、オレはグリーン、このポケモン馬鹿の幼なじみで、トキワジムリーダーだ。よろしくな」
「ポケモン馬鹿?」
「あ、レッドのことだよ。こいつってポケモンのことしか頭にないからな。で、お前は?」
「あっ、すみません。なまえです、こちらこそ、よろしくお願いします。グリーンさんはジムリーダーだったんですね!」


あまり喋らず、無表情なレッドさんの幼なじみであるグリーンさんは、レッドさんの分まで社交的で表情豊かな人だった。


「しかもトキワジムって、カントーで最難関のジムじゃないですか」
「まぁなー、でも大したもんじゃねぇよ?」


そういいつつも万更ではなさそうなグリーンさんは、さっきの鋭い眼光とは打って変わって明るく笑った。


「失礼致します、紅茶のお代わりはいかがですか?」
「ああ、お願いします」
「あっ、私も」
「……」


そのグリーンさんの隣で黙々と、私が持ってきた「差し入れ」を食べながらカップを差し出すレッドさんに、ジョーイさんが紅茶のお代わりを差し出す。

私はそんなレッドさんを見、ジョーイさんからお代わりを受け取り、またグリーンさんを見る。

何で今日は、こんなに美形率が…。


「で、なまえとレッドは何で知り合ったんだ?」
「それは偶然、ポケモンセンターで…。私がカントーが初めてだったときに、レッドさんに色々と親切にしてもらったんです」
「……ふぅん?」
「……」


ちょっと意地悪そうに口元を歪めたグリーンさんの視線を、レッドさんは紅茶を飲みながら、さらりと受け流した。

幼なじみだからこそ、視線で通じ合ってるようなやりとりに、つい私は嬉しくなる。


「あの、グリーンさんはいつも、こうしてレッドさんに食料を運んでるんですか?」
「あー、うん、まぁ、幼なじみのよしみっつーか…こいつの母さんも心配してて、色々頼まれてるからな」
「え、レッドさんお家に帰ってないんですか?」
「……それは、」


レッドさんの表情が少し崩れ、またしてもグリーンさんとの間で視線のやりとりがある。


「……ぶっ、ははは!」
「…え!?」


そして突然、グリーンさんはお腹を抱えて笑いだした。呆然とする私の前で、レッドさんは打って変わって憮然としている。


「え、え、レッドさん、何がどうなったんですか…?」
「…分からなくて、いいよ」


言ったと思ったら、レッドさんはグリーンさんの腕を引っ掴んで、ぐいぐいと引きずるように食堂の外へ連れていく。

ええっ…!!?
あわてて追い掛けようとした私に、おとなしく引きずられるように歩いたまま、けどはっきりと笑みの残る唇で、グリーンさんは言った。


「なまえはそのままでいいよ、オレはそろそろ帰るからさ。また会おうぜ、じゃーな」
「…会わなくていい」


氷点下みたいなレッドさんのせりふが聞こえた気がしたけど、それを確かめることもないうちに、ふたりは食堂の外へ消えた。


「ふふっ、大変ですね」
「ジョーイさん。私、何が何だか…」
「だいじょうぶ。レッドさんはまだ帰らないでしょうから。あんなやりとりをしてらっしゃるけど、グリーンさんはいつも、レッドさんに食料を運んでいるんですよ」
「…そう…なんですか」


じゃあなぜ、レッドさんは私に差し入れを頼んだんだろう…?確かに、それくらいしか私がお礼としてできそうなことはないけど、でもトキワのジムリーダーに比べれば、全然…。


「レッドさん戻ってきましたよ」


ジョーイさんは、私がレッドさんを確認すると、ごゆっくりと言って戻っていった。


「レッドさん、」
「なに」
「グリーンさんは」
「………帰った」


レッドさんはほんの少しだけ眉を寄せたように見えたけど、それは本当にわずかで、グリーンさんなら分かったかもしれないけど、私には分からなかった。

それは当たり前、私とレッドさんはまだ、これで会うのが三回目なんだから。
言い聞かせても、どこか寂しい気がした。
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