novel | ナノ

渡されたのは事故の後日調査のお知らせみたいなプリントで、端にちいさく走り書きされている日付はたしかに、私が体調を崩した日、グリーンとあの女の子を見た日と一致する。

だれなのか聞いてるのに、グリーンは結局、お前のクラスのだれかに聞けばわかるからって教えてくれなかった。

頼んでおいて意味がわからない…もしかすると、覚えてないのかもしれない。マネージャーの子の名前すらまともに覚えてなかったグリーンのことだから、じゅうぶんあり得る。


「…あの、教えてもらってもいい?」


放課後の教室はさすがにひとがまばらだった。

教室に入ってすぐの席で、何かのノートを写しているクラスメートに声をかけると、彼女は顔をあげて私をみとめにっこり笑った。


「なまえちゃん、元気になったんだね!よかった」
「うん…、ありがとう」


そこまで親しくはなくても、クラスメートはみんなお互いに友達だっていうのが私たちの暗黙のルールみたいなもので、それは小学校から変わらない。

それに不満があるわけじゃなけど、たまにとても不安になる。私たちが名前をつけて呼びあう関係のうち、いったいどれだけが正しい名前なんだろう?

たとえば、私とグリーンとの間に存在するものの、正しい名前は…。

思わず考えこんでしまった私を、彼女は不思議そうに首をかしげて見つめた。


「聞きたいことってなあに?」
「あっ、あのね、このクラスでここ最近事故にあった子ってだれだかわかる?」


うわ、恥ずかしい…はなしかけられてようやく我に返った。

あわてて聞きなおせば、彼女はまるい目をちょっとまばたかせた後、そろそろと手をあげた。


「それ…私だよ」
「ちょうどよかった!これ、グリーンから」


あまりのナイスタイミングぶりにちょっとびっくりしつつも、思わず笑顔になる。たしかに言われてみれば、あの声も後ろ姿も、この子だった。

ぺろりとプリントを手渡したら、彼女はびっくりしたようにそれをじっと見つめて、つぶやいた。


「…グリーンくんが…私に?」
「うん、渡してって言ってたよ」


さて、じゃあ部活に行こうかな。

荷物を取りに、教室の外のロッカーに向かおうとした私を、彼女の動揺に満ちた声が呼び止める。

なーに、なんてばかみたいに腑抜けた返事をした私は、彼女の顔を見て口もとを引きしめた。


「なまえちゃん、グリーンくんと仲が良いの…?」
「そんなこと、ないけど…」
「うそ」


急に激しくなった彼女の物言いに、思わずひるむ。

彼女の手のなかで、プリントがぐしゃりと悲鳴をあげた。


「グリーンくんが隠れて付き合ってる子って、なまえちゃんでしょ。私、わかるんだから」


ぱっと、教室の後ろの方にいた男子が数人こちらを注視したのを感じながら、私は彼女を見つめることしかできなかった。
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