novel | ナノ

毎日毎日、学校に行って授業を受けて、放課後はすぐに部活に行って、くたくたになって帰宅して。

テストは終わったばっかりなのにそのサイクルが崩れる日が来るなんて、考えたこともなかった。

あんなあからさまな言い方をしたからか、化学の先生は親切で、マンツーマンの補習をやってもらえることになった。まだ人の残る教室で、補習の予習にって出された1年の範囲からのプリントをうめていく。

世界史とか古典なら没頭できるけど、やっぱり化学は気が散って仕方ない。ふと目をやった窓の外はもう、暮れはじめている。

ばたばたと外の校舎周りを走る音、ボールを蹴る鈍い音。たしかバスケ部は今日は体育館練習……、ずきりと痛みが走って思い出す。そうだ、考えちゃいけないんだった。

まばたきをしてから手元に目を戻したら、いつの間にか引いちゃったらしい、無意味な黒くて細い線が、折れ線型の水分子の図を横切って伸びていた。

あの時…グリーンが口籠もったとき、急に理系科目をがんばりたいと思ったんだ。私とグリーンをつなぐ、唯一の、ただひとつの細い糸。

きっと、断ち切ったら戻らない。


「…やってるね」
「あ…先生」
「わからないことはあるかい?」


不意に教室の入り口に人気がさして、まだ教室にいたクラスメートがあわててそそくさと出ていく。校則にそぐわないものを持ってきてたのかもしれない…よく知らないけど。

入れ代わりにゆっくりやってきた先生は、私の前の席の椅子を引いて、そこに横向きに座った。思わず目を見張って見つめる私に、先生は首をかしげた。


「何かな?」
「あ……」


まさか言えるはずもなくて、あわてて手元に視線を落としたら、まだ消していなかった細い線はさっきより伸びているようにさえ見えた。


「あのっ、これの解き方がわかりません」


焦って適当に指差した、線から離れた位置の問題を、どれどれと先生は覗き込む。見つめていた線は乗り出した腕に阻まれて見えなくなった。
110301
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