キーンコーンカーンコーン……間延びしたようなチャイムを聞きながら、私はごろりと寝返りを打った。保健室のベッドはパイプ製だから、ちょっとの身動きでもぎしぎしときしんだ音が響いてしまう。 まわりにひかれたカーテンのなかは、今だけは私のテリトリーだけど、ふさがれた明かりのすくない小さな空間は私の心そのものみたいで、それがすごくすごく、吐きそうなくらい嫌だった。 「なまえちゃん、調子はどう…?」 シャッとカーテンの引かれる音がして、顔馴染みのやさしい保健の先生が入ってくる。いつも相談にのってくれる、美人でやさしいだいすきな先生。 「…気持ち悪い、です」 「うん、それを使って」 「すみ、ません……」 あらかじめ用意してあった桶を抱えてベッドに座り込む私の隣に座って、先生は背中をさすってくれる。 気持ちの悪さはそれほどのことじゃない。いっそのこと、この感情ごとすべて吐き出せたらどれほど楽だろう。 「風邪だね…二時間休んだけれど治らないし、早退した方がいいよ。担任の先生には伝えて来るし、カバンも持ってくるから待ってて」 先生は大丈夫、と私を元気づけてから保健室を出ていく。 やさしさに甘え切った私自身が、吐き気がするほど大嫌い。先生みたいになりたかったけど、こんな卑怯な私じゃ絶対に無理な話だってことは、自分がいちばんわかっていた。 友達が三人で支度してくれたというカバンを手渡しながら、みんな心配してたよ、早く治してね、とほほえんだ先生はすごくきれいだったから。 「…あ、そうそう」 「え?」 「持ってくる途中にグリーンくんに会ってね、なまえちゃん早退かって聞かれたよ」 私は扉の取っ手に手をかけたまま硬直した。グリーンの名前なんか聞きたくない、聞きたくないと思うのに、全神経が耳に集中してしまうのが自分でもよくわかる。 「それで…先生は、何て答えたんですか?」 「もちろん、そうだよって。そうしたらこれ渡しといてくださいって言うから、受け取って入れておいたよ、電子辞書」 思わず取っ手からジッパーに手をうつして、カバンをひらいた。いつも通り教科書は置きっぱなしですかすかのカバンのなかに、見慣れたつやのある緑色が光る。 「ちゃんとあるでしょ?」 「……はい」 「よし。じゃあ気をつけて。お大事にね」 ひらひらと手を振った先生にありがとうございましたとお礼を言って、学校を出た。 空は雲ひとつないくらい青々としていたけれど、昨日一晩降り続けた雨でできた水溜まりはしぶとく道ばたに落ちていて、空の青をそっくり真似している。 110215
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