novel | ナノ


※学生設定


あついあついあつい、とみんな口々に言った。夏の炎天下、ひたすら土にまみれてボールを追っかけてるんだからあついのは当たり前なんだけど、まるでシャワーを浴びたみたいに汗でずぶぬれになっているみんなを見ているのはしのびなかった。

だから先生に許可をもらって、私たちマネージャーで一計を画した、わけだけれど。


「さーて、どうやって落とし前をつけてもらおうか」
「だ、だからごめんってば」
「ひとをこんなずぶぬれにしといて、ごめんのひとことで済むとおもってないよな?」


そもそも私たちが計画したのは、練習後に水あそびという名の水のかけあいをするという、いわばただのおあそび。だけど楽しいし、ひと夏の思い出になるし、グラウンドの水まきにもなるし、身体の熱も冷ませるという一石で何鳥にもなるもののはず、だった。

まさかグリーンが、こんなに本気で怒るなんて思ってなかったし…というよりも、くだらねーとか言って輪に加わろうとしなかったグリーンに、私が盛大にバケツで水をぶっかけてしまったのがそもそもの原因なのだけれども。それはわかってるけど…!


「そんなに、怒らなくてもいいじゃん…」
「オレは今日スポーツタオル一枚しかもってねえんだよ。どうやって帰るんだよ」
「…乾くまで待つ、とか?」


これでもいっしょうけんめい考えて答えを出したのに、それを聞いたグリーンは盛大なためいきをお吐きになった。…わるいのは私だけど、なんだかやけにむかつくためいきの使い方だった。グラウンドからけんめいに逃げてきたせいでまわりにはだれもいなくて、日陰ですこしひんやりとした袋小路に追いつめられた私の逃げ道はひとつもない。

仕方ない、かな…。ついに覚悟をきめて、かたくなにうつむけていた視線をぐっとあげた。とたんにしたたる水をぬぐおうともしないグリーンの、きれいな顔がとびこんできて心臓がとまりそうになった。

うすい茶色をしたひとみが、私をうつしてようやく、ちろりと笑った。


「ま、おまえが責任もってつきあってくれんなら、乾くまで待つのもわるくねーな」


さあっと流れた風にはグリーンからしたたる水の香りもまじっていて、なんだか異様にはずかしい。


20110610~20110702
綺麗な僕らでいられる日々/ace

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