novel | ナノ

窓の外はもう薄暗くて、だんだんと日は短くなってきている。どうせプリントを自分たちでやるだけなんだから、7時間目なんて早く終わればいいのに。

ちょんちょんと隣の子に肩をつつかれて振り返ったら、彼はつまらなさそうにくるくるとペンを回していた。


「なぁ、もう解けた?」
「もうちょっとだけど…」
「何、どうすんの?」


教えてよ、と乗り出してくる様子を、なんだか他人事みたいに不思議に思った。ついこの間までこれは私の行動だったんだ。

これはここに補助線を引いてー、となるべくゆっくり説明しながら、グリーンがたくさんコツを書き加えてくれたノートのとおりに、シナリオを脳内でなぞっていく。

お前文系科目得意なんだしさ、数学を物語だと思ってみろよ、と言われたのはついこの間のことなのに、ずいぶん昔みたいに感じる。


「すっげぇ、分かりやす!数学得意なんだな!」
「ううん、これ、私も人に聞いたんだ」


純粋にきらきら目を輝かせる彼に苦笑いをするしかない。本当にすごいのは、バスケも勉強も完璧で、そうするだけの努力を惜しまないグリーンだ。

初めはあの威張り散らした態度が嫌いだったけど、グリーンがいちばん厳しいのは自分に対してだから。それに気づいたとき…グリーンは私の、目標になった。


「…でもさ、その解法をちゃんと覚えてるのもすげーよ」
「…え?」
「教えてもらったことをちゃんと自分のものにするまで、努力してる証拠じゃん」


えらいと思うよ、と軽く言ってさっさとノートに向き直った彼にはたいしたことではなかったのかもしれない。だけど、私はとっさに何も言えないくらいびっくりしていた。

私は努力している。

そんなふうに言ってもらったの初めて。今までグリーンにけなされてばっかりで、たまに誉めてくれてもすぐけなされちゃうから自信なんかこれっぽっちもなかったけど、なんだかうれしい。


「あ、あとさーこっちはどうやんの?」
「これは、たしかここを結んで三角形にして…」


また振り返ってきた彼に思わず笑顔になったら、向こうも笑った。初めて数学が楽しいと思えた。
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