novel | ナノ

30連発企画より抜粋


ふしぎ。グリーンは絵に描いたような人気者だから、1人きりでいることなんてないに等しいのに。

キィ、と屋上独特の、備えつけの悪いフェンスの扉が鳴いて、私はふり返った。そして一目で、入ってきたのが誰だかを知る。どうしてグリーンは私と会うとき、いつも夕陽を背負ってるんだろう…とか考えてる間に、グリーンがそんなに距離のなかった私に気づかないはずもなく。


「…あれ、なまえ?」
「あ、グリーン。久しぶり〜」
「そういや最近会わねーな」
「んー、そうだね」


グリーンのことばに私はすこし肩を落として苦笑いするしかない。だって私は毎日、必ずどこかでグリーンのことを見かけているから。

どんなに離れた距離にいても、グリーンの姿を私の目は見逃さない。それこそ自然に。するりと磁石のように、まるで…視線を吸われているみたいに。


「……で、どうよ最近?」
「どう、って?」
「ま、となり座れよ。ほら」


どっかりとベンチに腰掛けたグリーンは、ポンポン、と自分のとなりを手で叩きながら私をうながす。迷ったのはゼロコンマ数秒だった。


「勉強だよ勉強。あのテストどうだったんだ?」
「あぁ!あれね、グリーンのおかげで平均超えたの!もう私うれしくて!!」
「スゲーじゃん!」


へへ、と笑う私のあたまに、突然グリーンは手を置いた。びっくりするまもなくわしゃわしゃと、まるで子犬にするみたいに髪をぐしゃぐしゃにされて、私は目を見開いたままいろんな意味で硬直した。


「……な……な?」
「な、ってなんだよ」


あいかわらず意味わかんねーな、とけらけら笑ってグリーンの手は離れていって、私はようやく覚醒する。


「何、すんの。髪ぐしゃぐしゃじゃん」
「いいじゃん、すぐ直るだろ。グリーンさまが誉めてやってんだぜ」
「む。子供扱いしてるでしょ」
「さぁなー?」
「うわ、ムカつく」
「ははっ」


心底楽しそうに笑う横顔がかっこよくて、私はむっとしつつもすねる。きっと誰がみたってグリーンは美形で、私は平凡。それはきっとグリーンが見たら尚更。


「…そういうグリーンは最近どうなの?」
「あー…、まぁ、まぁまぁ?」
「…何ソレ、ギャグ?」
「違ぇよ」


アホか、とグリーンが今度はあきれ返る。今度は私があはは、と笑ってやった。

私たちを包む夕陽はその濃さを増していく。伴うように私の鼓動もさっきから早鐘を打っている。どうしよう、指、ふるえてるかも…。


「そういや、おまえ一応水泳部だろ?大会いつだよ」
「一応って!!……確かにリレーしか出れないけどさ」
「いいんじゃねーの?リレーだけでもスタメンはスタメンだろ。で?」


グリーンのことばは自然で、それが励ましでもなく同情でもなく、単なるグリーンの感想として言ってくれているのがわかった。それがなんだか嬉しくて、悔しかった。何よりも個人技に出たかったのはみんな同じだけど、それを見透かされた気がして。


「……明後日」
「は!!?こんなとこで何やってんだよお前、」
「いーの!精神統一の一種だから。それよりバスケ部は?」
「……オレは、一週間後」
「そ、……か」


聞いて一抹の後悔。応援に行きたいなんて、言えるはずもないのに。


「…なかなか、近いじゃん」
「まぁ、お前ほどじゃないけどな。だからこうやってられるわけだし?」
「失礼な。私だって練習はちゃんとしてるよ」
「へーふーんそう」
「…ほんと、ムカつく」
「ははっ、まじ面白いなお前」

くつくつと笑うグリーンに、理不尽な小さな怒りを感じてしまう。分かってる。私の気持ちをグリーンが知ってるわけないのに。


「がん、ばって……ね」
「………おう」


それで会話は途切れたのになんだか動きたくなくて、グリーンもしばらくそこを動かず、ただふたりで、沈んでいく夕陽をじっと見ていた。

揺らぎ/1008
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