novel | ナノ

学パロ


あーもう、よく分からない…!ちんぷんかんぷんな数字と文字の羅列にくらくらする。大体、なんで数字ばっかりなとこにアルファベットが出てくるわけ?そこからして間違ってる!


「ばかじゃねーの?」
「ぐ、グリーン」
「そんなんも解けないで、お前よく進級できたよな〜。中一レベルだぞ、これ」
「むっ、分かってますよーだ。別に今は眠いだけで、こんなもの本気になれば朝飯前なんだから」
「朝飯前なんだろ?なのになんで眠いとできねーんだよ、おかしいだろ。なまえ、お前あほだよなぁほんとに」


言葉尻を取られて、私は意地悪くゆがんだ笑みを浮かべてるクラストップ「だった」男を睨んだ。

そもそも私は放課後に誰もいない教室でテスト勉強をしてただけなのに、なんで他クラスのグリーンが入ってくるんだろう。

悔しい。

きれいな顔して生まれてきて、頭も良くて、スポーツも万能で。非の打ち所のないあなたは生きていくのも楽で、悩みもなくていいでしょうよ、と私は毒づいた。

そんな風に何もかも持ってるくせに、何もかも持ってない私みたいな人間をからかって、ばかにし倒して、何が目的……ああ、非の打ち所のないとは思ったけど性格だけは悪いんだ。

なるほど、神様はこいつに、一番大事なものをあげなかったってことか…。



1年生のころは全員ランダムに振り分けられたクラスだったから、私とグリーンは初対面から最悪な1年を過ごした。2年からは成績順に分けられて、グリーンは特進に行ったからようやく平和な日々が送れてたのに。

グリーンって、いつもそうなんだ。忘れてた頃にとつぜん現れて、平穏な私の心をめためたに踏みにじっていく。頑なにうつむいてたら、私の前の席が、がたんと少し乱暴に音をたてた。


「……で?こんな簡単な式の何が分かんねーんだよ」
「………。すべて」
「あのなぁ…。…仕方ねーな、まず文字の取り扱いからか」
「グリーン、自分の勉強しなくていいの?」
「いらねーよ、んなもん」


さらさら、と迷うことのないシャーペンの音が、無言の教室にはじけた。

グリーンは私の席の前の机に座って、乗り出すようにして私の机で式を完成させていく。みるみるうちに、私のノートが分かりやすいノートに変わっていく。私だけの、私が分からないことだけが説明されたノート。

一年のときから使ってる、グリーンの筆跡だらけのノートだ。


「うし、書けた。ここまで読んで、分かんねーとこは?」
「………。え、文字って便利なの?」
「すっげー便利だろ。オレにしてみれば、むしろ気づかないお前が怖いね」
「なっ、むかつくんだけどさっきから!」
「はいはい。じゃあここまでは?」
「…………。あ。なるほど、だから便利なんだね。私ばかみたいじゃん」
「今さら気づいたか」
「うっさい!」
「お前の方がうるせーよ」


勢いでようやく顔を上げた。夕日に照らされてへらへらと笑うグリーンを、今日初めて、そして久しぶりに見た。 深い陰影のついた、生まれつきのきれいな顔。ぎゅうっと心臓をわしづかみにするような痛みを感じて、私は思わず唇を噛んであわててノートに目を戻した。



*****



「……!!!うそ、解けた!」
「な、簡単だろ?」
「ほんとだ!こんな簡単に解けるなんて夢みたい」
「夢じゃなくてちゃんと原理があるんだよ、ばか」
「だーかーらー、さっきからばかばか言うな〜」
「声に力入ってねーぞなまえ、やりがいねーな」
「一応自重してるんです〜」


教えてもらっちゃったからね、と笑うと、グリーンも机に座ったまま、へえと言って笑った。

あ。また。痛い。

軽く軽くなって飛んでいきそうになった心を引き止めるようにも感じられる。

そう、グリーンは人をばかにするくせにやけに優しいんだ。そんなこと、本当は知ってた。飴とムチっていうのかな…、やさしさと厳しさを使い分けるのがうまいってこと。

容姿も文武両道なのも原因のひとつではあるけれど、なによりそのギャップに女の子たちは夢中になるんだってことも。

知ってたんだ、1年生の教室で、初めてのテストでばかにされたときから。神様はこいつにすべてをあげてるんだってことも。ぜんぶぜんぶぜんぶ。

今だってこの後家に帰ったら、ばかみたいにがむしゃらに勉強するってこと、私は知ってるんだから。


「で、喜ぶのはまだ早ぇーな。範囲ここまでか?」
「うん」
「ふーん、やっぱり進みちがうな…。まぁいいや、明日の教科は?」
「数学Uと世界史」
「げ、明日だったのかよ。でも世界史はお前得意だもんな。ま、せいぜい赤点取んねーようにがんばれよ」
「…うん」


笑いながら教室を出て行こうとしてたグリーンは、私がうなずくとふと立ち止まった。


「…風邪でも引いてんのか?」


日はもうほとんど沈んで教室はかなり暗くなってたから、グリーンに私の顔は見えなかったと思う。でも廊下に半分出てたグリーンの怪訝そうな顔は、蛍光灯に照らされてはっきり見えた。

わずかな逡巡。ここでうなずいたら、グリーンはどうするのかな…。


「違うよ、そんなわけないじゃん」
「だよなー、ばかは風邪引かないって言うしな」
「失礼な、私だって風邪引くときはひくからね!」
「へーそうふーん」
「ちょっと!」
「嘘だよ、わかってるって。じゃーな」


あ、と出かかる声を、私は押し殺した。そのまま遠ざかる足音に、少しずつ浮いていた心が冷えて落ちていく。

座りこんだ拍子にがたんとイスが音をたてた。薄暗くなった教室の広さを、私に気づかせた。


「……分かってるって、って…」


それをいうなら私が。私の方が、テスト期間じゃなくたってグリーンのこと探してるし、知ってる。めちゃめちゃに踏み荒らされたそれをひとつ埋めるたびに思いだして苦しくなるのに。

ずるい。ずるい。

テスト期間なんか来なきゃいいのにと思いながらテスト期間を待つ私は、おかしいのかもしれない。少なくとも普通じゃないのは、自分でもわかっていた。



(自分に嘘をついてるだけ)
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