ぼんやりしたオレンジ色の光は熱っぽいざわめきをともなって、跪いたグリーンの、眉間にしわの寄った顔をくっきり際だたせた。 「おまえなあ…」 「だ、大丈夫だよこれくらい!ほら私って丈夫だから!」 「……」 笑ってくれるかと思いきや、グリーンは反応すらしてくれなかった。顔をしかめたまま、赤くなった私の足首をもう一度ながめる。もともとすその長い浴衣は私のコンプレックスである足をすっぽり隠してくれてはいるものの、ただでさえきれいな顔がひざまずいてそこにあれば恥ずかしさは増した。 ましてや薄ぼんやりした提灯の明かりがオプションでついているものだから、さっきからちらちら寄越される女の子たちの視線が、本人よりも気になってしかたない。色とりどりのきれいな衣の似合う、決してこんなドジをふんだりしないような女の子たちの、ちょうどこの場の空気みたいに、熱に浮かされたような視線が。 お祭りだからってはしゃぎすぎちゃったかな、と悲しくなったとき、ちょうど考えていたのと同じことをグリーンが口にした。 「大体、慣れない格好してくるからだろ」 「……ごめん」 もっともなご意見に、口をすぼめるしかない。 グリーンは私がいつもみたいに反論してこないのを不審に思ったのか、それとも単にあきれ返ってるのかもしれないけど、もう一度、私のはれて赤くなった足首を一瞥してため息をついた。立ちあがるとちょうど明かりがグリーンのあたまの後ろに来るから、表情が見えなくなる。 次はいったい何を言われるのかと、思わず身構えた。 「…ひとつ目、とにかく履きやすいものに履き替えること」 「…うん?」 「ふたつ目、無理はしないこと」 「…はい」 「それからみっつ目は、はぐれないようにすること」 表情は見えないけれどグリーンの口調はやけにまじめで、何のことかすらわからないのに、ついつい私も慎重にうなずき返す。 最後のことばにわかりましたと返事をしたら、グリーンの口調は一変して楽しげなものに変わった。さっきから声色でこんなにはっきり表情を思い描けるのが、自分でもふしぎで、だけど何だかうれしい。うぬぼれるわけじゃないけど、きっとこんなの、私だけだ。浴衣は似合わなくたって、あの女の子たちには負けてない。 「よし。いい返事だから、本来なら帰るところだけど連れてってやるよ」 「いいの!?」 「男に二言はないからな」 にっと笑ったんであろうグリーンは、きれいにセットした私の髪をぐしゃぐしゃにしないようにそっとあたまに触れて、不意にくちびるを寄せてきた。 「それから、勘違いしてるみたいだから言うけど。似合ってるからな、それ」 「…え?」 反射的にぎゅっと目を閉じていた私は、耳もとでささやかれたことばにびっくりして目を見ひらいた。ふわりとグリーンの香りがしたと思ったら次の瞬間にはくちびるにぬくもりが触れていて、ぎょっとしてまた目をつぶる。 網膜に焼きついたのは流れ星みたいにめまぐるしい光で、くらくらしながら薄目をあけたら、グリーンの笑顔がこんどはやけによく見えた。グリーンが私の手をひいて提灯の下を歩きだしたからなんだけど、混乱した脳がついていってないせいで、とっさによくわからなかった。 下手したらすぐはぐれちゃいそうな人混みのなかで、ぼうっとしたままの私をグリーンが笑う。 「ほら、負傷しながら来たんだから楽しまねーと、足首のぶん損するぜ」 「ちょっと!そういう恥ずかしいこと言わないでよ!」 ほおがあつくなったのを自覚しながらも、おかしそうに笑うグリーンが私の足首をかばいながら歩いてくれているのはわかっていた。 境内まで、もうあと少し。 110615 Thanks;ace |