novel | ナノ

いつもあげるのは恒例行事だったし、その延長でこっそり本命を混ぜたほうが気楽だったから、毎年義理チョコと分けたことなんかなくて。

だけど友達に、恋するオトメとしてあるまじき行為!とかめちゃめちゃに批判されたから、今年は結構がんばってつくってみた。ただ、それだけ。

だけどジムでは女の子の壁、帰宅時間は家の前にも女の子の壁。ご近所なのをいいことに部屋の窓から見ていたら、グリーンの家の前には一時間と間を開けずに女の子が立っている。

そんなこんなでぐずぐずしてるうちにすっかり夜は更けて、もうすぐ日付は変わる頃。義理チョコの延長でならあの中に混じって渡すことも、ナナミさんにあらかじめ預けておくこともできたのに。

本命チョコなんか、彼女でもないのにつくるべきじゃないな、なんて、机の上で寂しそうにする箱に、グリーンにするよりも優しくこつんとでこぴんした。

ポケギアが鳴ったのはそれとほぼ同時で、どうせ渡せたの?とかそんな友達からの冷やかしの電話だろうと、ろくに相手も確かめずに通話ボタンを押した。


「もしもし?私いま傷心中だからお手柔らかにお願い…」
『わりぃなまえ、ちょっとかくまってほしいんだけど』


案の定というか、少しも予想できなかったわけじゃないけど、チョコレートから逃げてきたグリーンはピジョットで私の部屋に乗りつけた。

人の気も知らずに、ひどいめにあったぜ、なんて笑うグリーンは、あのひとつひとつが女の子の気持ちをどれだけ詰め込んでいるのかなんて、考えたこともないのかな。


「今年はどうしたの?ゲンガーにでも追いかけ回された?」
「いや、オレ相変わらずモテちゃってさ」


あはは、とさわやかに笑ってひとのベッドに腰かけたグリーンに、私のイーブイがとびついた。


「…相変わらずポケモンにもモテるね」
「オレって年中モテ期だよなー」


元々グリーンがくれたたまごから孵ったイーブイだからグリーンに懐くのも当然なんだけど、ポケモンに接するときにグリーンが見せる優しい眼差しが好きな私は、黙ってグリーンがイーブイを撫でるのを見ていた。


「あ、私お茶煎れてくる」
「気にしなくていいって、オレが転がり込んできただけなんだし」
「私も飲みたいから。もうしばらくいるんでしょ?」


チョコレートから逃げてきたグリーンには、机の上で沈黙する箱はもう用済みだろう。

こっそり手に持って部屋を出ようとしたら、呼び止められてどきりとした。


「…なぁ、お前傷心中なのか?」
「なっ……聞いてたの!?」
「あれだろ、本命渡せなかっ」
「ば、ばか忘れてよそういうのは!」
「なんで?」


気がついたらいつの間にか真後ろにいたグリーンの腕が、包みこむように私の身体に回っていた。

持っていた箱に、グリーンの手が触れる。


「これ、本命なんだろ」
「な…に言って、」
「オレ、まだ今年お前からもらってねーし」


耳に直接ひびく声にくらくらしてきたころ、ようやくグリーンがわざとやってることに気がついた。


「ちょっ…グリーン!」
「ばれたか」


ようやく身を翻してグリーンと距離を取る。いたずらっ子みたいににっと笑ったグリーンは、もう何もかもお見通し、というしたり顔で手を差し出してきた。


「お前が素直になんねーのが悪いんだぜ、なまえちゃん?」
「〜っ、ばかグリーン!」
「はは、サンキュ」


気持ちを悟られてたことが恥ずかしすぎて、さっきのでこぴんよりずっとずっと乱暴に箱をグリーンの手に押しつけた。


「んじゃ、トクベツにお前にはお返しをやるよ」
「え…!?」


箱を受け取った手とは反対の手が伸びてきて、頭をぐっと引き寄せられる。

思わず目をつぶった額に、こつんと軽い衝撃。


「お前のそういう素直じゃないとこも結構好きだぜ、なまえ」


目を開いたら視界いっぱいのグリーンが、見たこともないくらいうれしそうに、照れくさそうに笑っていた。

かちり、と日付が変わる。

Happy Valentine!
110212
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