泣くな、とグリーンは耳元で言った。後ろから抱きしめられているから表情はわからない。 外はもう真っ暗で、窓からうっすらと差し込む月明かりだけが頼りだけど、どちらにせよ私の目には何も映らない。 グリーンの声はたしかに聞こえたけど、従うことはできなかった。ふるえるのどがまたしゃくりあげて、ぼたぼたと大粒の涙がクリアな視界を奪う。 今度はグリーンは何も言わなかった。何も言わずに、私の肩にまわしていた腕を片方だけ解いて、私の頭を撫ではじめた。涙がほおを伝って膝のうえに落ちる。その雫に赤い光がぼんやりと反射した。 いま、傷だらけでぼろぼろなった私の相棒はあの光の向こうだ。その赤い光を見ていたら、またのどがふるえた。 ぎゅ、とまわされた腕が強くなって、グリーンの呼吸も耳元でゆっくり繰り返される。グリーンは、気休めなんか言わなかった。 ごめん、ごめんね、ごめんなさい、ごめんね、ごめ……っ、私が腑甲斐ないトレーナーだったばっかりに、あなたをこんな目に合わせてしまってごめんね、 「なまえ…」 背中越しに、グリーンの鼓動がひとつ、伝わった。かすれた声に顔を上げれば、あの赤いランプが消えていた。 どきりといやな跳ね方をした心臓と共に立ち上がったらグリーンの腕はするりと解ける。 遅れて立ち上がったグリーンは、今度は私の手をつかんで、かたく握り締めていた手のひらをほぐして、指をからめてくれる。 知らず、くちびるからふるえた息が漏れた。 赤い光の向こうから来た人は、私の前で立ち止まる。さっきみたいに、グリーンの手は力を強くした。痛みを感じることで、これは夢じゃないんだととつぜん気が付いた。 お医者さんは私を見て、それから私の隣を見て、ほっとしたように笑った。 「大丈夫、深くて深刻な傷は一ヶ所だけでしたから。あなたのおかげですね」 ふにゃりと力が抜ける私の身体を受けとめてくれたのはやっぱりグリーンで、安心してようやく、グリーンにすごく助けてもらったことを自覚した。 クリアになった視界に、なんだか久しぶりにグリーンが映った気がする。なんだか悲しそうな顔、どうしてだろう。あの子は助かったのに。 余裕がなくて、グリーンのやさしさに甘え切っちゃった。ごめんね、ありがとう。 笑って見せようとしたけどできなくて、言葉は声にならない。 悲しそうな顔のまま、グリーンは支えてくれていた両腕で私を抱きしめてくれた。背の高いグリーンの顔が、肩口にうめられる。 「オレは、お前が無事なら何もいらねーよ…」 さっきみたいにかすれた声を聞きながら、私はうれしくて笑った。肩のゆれで気が付いたらしいグリーンが、何笑ってんだよ、とささやく。 答える代わりにぎゅっと、私からグリーンを抱きしめてみた。何だよ、と返してくるグリーンの声にもようやく笑みが交じりはじめる。 伝わる心音が、愛しい。 …Thanks;ace
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