novel | ナノ


久々にマサラに帰ってきたレッドは、なぜか自分の家より先に私の部屋にやってきた。

ノックされた窓を開けて、私は直通でやってきた訪問者に首をかしげてみせた。リザードンのつばさが上下するのにあわせて、突風が窓をガタガタ揺らす。


「……ここはひとの出入りする場所じゃありませんけど?」
「……」


前から無口だったけど、この頃はさらに磨きがかかってしまったような気がするのは私だけじゃないと思う。

この前シロガネ山に物資運搬に行ったグリーンも、ありがとうくらい言えってぇの、なんてすごく怒ってた。それでもレッドだいすきなグリーンは懲りずに説得しに行ったりするんだけど、まあそれは置いとくとして。


「……なまえ」
「……なんでしょう」


また視線で訴えるこうげき。レッドって山で修行するうちに、いくつかのことばと引き換えにいくつかのわざを覚えたんじゃないかと思うときがある。どこのフェアリーテイルだって思うけど、これは本気で。

だってこんなにまっすぐできれいな赤い目を持ってるひと、絶対、他にいない。

ホバリング状態のリザードンが苦しそうなのもあって、私はレッドを窓から部屋に通すのを認めざるをえなくなった。


「…で、どうしたの……レッド?」


レッドが部屋に入るや否や、リザードンは疲れ切っていたみたいで自分からモンスターボールに戻ってしまった。シロガネ山から降りてきたんだから当然といえば当然なんだけど、可愛そうなことをしてしまったかもしれない。

早く入れてあげればよかったなぁと思いながら尋ねたとき、つづけてレッドが繰り出したのは、ええと……だきつく…?

後ろからお腹にまわる両腕が意外としっかりしていることを、触れられてから思い出す。記憶をなぞるのはなんだか恥ずかしい。離れている間は、擦り切れてしまうくらい思い出すのに。


「……なまえ」


不意にいつもより低い声が、直に耳をついた。思わず跳ねた肩は隠しようもなくて、レッドが笑ったのが気配でわかる。


「ちょっとレッド、なに…?」


ほんの数秒前まで冷静のかたまりだった私を一気に混乱に突き落としたレッドは何も答えず、かわりにぺろり、と耳のふちを舐めた。

思わぬこうげきに、背筋を熱が駆けた。びっくりしすぎて真っ白になる頭に、聞いたことのないような声だけが響く。

こっち向いて、とうながされるままにぼんやりと首だけ回したら、間近でばっちりと合った目は、やっぱり目だけで十分すぎるくらいのものを伝えてくれている。


「……会いたくて来ただけだよ」


ささやかれたことばがさっきの返事だと気づいた頃には、もう私の息もことばもレッドに持っていかれていた。

Thanks;xx
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