一瞬が永遠みたいだって、きっとこういう時のことをいうんだろうな。 私はもう、生きてるのか死んでるのかさえよくわからないまま、ただひたすら、ふるふるとゆれる小さな紫色の花を見つめていた。呼吸しているのかすら、わからない。 「……なまえ」 しばらくして…なのか、それとももっと早かったのかもしれない。 私の名前を呼んだトオイくんの声もかすれていたけれど、私は跳びあがらんばかりに過剰反応して、からだをゆらしてしまう。 かたくなにうつむいていた視線に、すうっと手が伸びてくる。そっと、やわらかなシルクに触れるようにつながれた手にうながされて顔を上げたら、とびこんできたのはあのときと変わらないトオイくんだった。 「……トオイくん?」 「本当は、ずっと見せたかったものがあるんだ」 ついてきて。 あの日からさっきまでの地をはうような数十日は夢だったのかと錯覚さえしてしまうくらい、トオイくんは優しく笑う。 もらえない返事に対する不安は確実にあったけれど、久しぶりに触れたぬくもりにぎゅうっとこころが縮こまって、反論なんてする余裕がなかった。 「みんな、移動するよ」 歩きかけながらふり返ってポケモンたちに呼びかけるトオイくんに、きらきらと太陽のひかりが降りそそいでまぶしい。 背後できゃっきゃと返事をするポケモンたちの声をきいていたら、ふと、自分がとても緊張していたことに気がついた。 私の向こう、ポケモンたちを見ていたトオイくんの視線が、そのまますとんと落ちてくる。 「僕も、すきだよ。なまえのこと」 まぶしくて、影になったトオイくんと目を合わせているかすら定かじゃなかったけど、こころにじんわりとひろがった熱いものはたぶん、照りつけてくる日差しとは関係ない。 行き先をしっているらしいプラスルとマイナンが、ヒトカゲをともなって私たちを追い越していく。 それを追うように歩きだしたトオイくんはもうふり返らなかったけれど、さっきよりも弱まった風が、トオイくんの色素の薄いきれいな髪をなでていく。ふわふわと、宙にただよっているような心地だった。 心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかとか、ひたすら恥ずかしいとか、そんないろんな感情がない交ぜになってて、…とてもひとことで表せない。 だけどそのいちばん奥底にあるのは、消しようもないほど満たされた、よろこびだった。 110709
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