日に日につよくなる日差しに、みんな目をふせて足早にあるいていく。黒いヒールをひびかせながら、あるいは革ぐつを投げだすようにしながら。 木陰のベンチにすわった私とヒトカゲは、そんな人々をもう何分もながめてすごしている。くあ〜とおおきくあくびをしたヒトカゲはほのおタイプのせいか、あまり暑さを感じないみたい。逆に昼間からあかるく燃えるほのおを側においている私としては、がまん大会なんだけど。 あついせいで、思考がだんだんぼんやりしてくる。 本当は、まだ会うのがすこし怖い。…本当は、もうすこし会わない時間がほしかった。だけど、そうやって会わないでいたら、もともと接点なんかひとつだってなかった私たちはもう、ぜったいに会わなくなってしまうんだろうなと思ったら、もっと怖くなった。 ラルースはひろい。広くてハイテクで、私はトオイくんに謝られることなんかひとつもないんだってこと、会えなくなる前に伝えておかないと…。 「あっ、なまえちゃん!ごめんね待たせて!」 「オードリーが遅いからよ、もう…」 ぱたぱたと軽い足音を引きつれてやってきた双子の女の子に、私はおもわずまばたいた。 勘違いをしたらしく、オードリーちゃんがごめんね、とあわてたように謝った。キャサリンちゃんもいっしょになってあたまを下げだすものだから、噴水広場にいた画家のお兄さんや大人のお姉さんたちが不審そうに視線を送ってきてあわてた。 「だっ、大丈夫だよ!」 「だけど…。それに、この前もごめんなさい」 「この前?」 キャサリンちゃんはいいよどみ、急に苦虫をかみつぶしたような顔になってまたあたまを下げだした。 あわあわしてしまって思わずベンチから立ちあがりながら、ユウコさんが謝りたいと言っていたのは彼女たちだったんだとようやく気がついた。 そういえば、ユウコさんはだれが、とははっきり言わなかった。それがわざとだったのか、それとも伝わると思っていたのかは、わからないけど…。 とにかく、私がかってに勘違いしたんだ。 「あのね。怒らないでね」 「うん。なあに?」 彼女らしくなく、さっき謝って以来じっとだまっていたオードリーちゃんがふと顔をあげた。 いつになくまじめな顔でみつめられて口もとをひきしめた私に、とつぜんだけどと前置きしたオードリーちゃんは、文字どおり、それこそ単刀直入に疑問のボールを投げてきた。 「なまえちゃん、トオイのことすきだよね?」 私は、息を止めた。 目を反らしたかったけど、オードリーちゃんのひとみはそれを許してくれない。 心臓がどきどきいっている音だけが、痛いくらいに耳にひびいた。 110709
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