novel | ナノ

「ただい……って、そうか。こんにちはユウコさん、お世話になります」
「おかえりなさい。気にしないでね、こちらもトオイくんがたくさんお世話になっているから」


出かけていたお兄ちゃんが帰ってきたのは、私たちがご飯を食べ終えてすぐのことだった。

なんだか元々しっていたような口調におもわず尋ねたら、母さんたちから連絡があったからな、って…何この兄妹不平等なかんじは…?

どうやらお父さんとお母さんはトオイ博士とミナモシティというところまで行っているらしく、帰るのが遅くなるらしい。それでユウコさんが来てくれたわけみたいだけど…ユウコさんがこっちに来ちゃったら、トオイくんはどうしてるんだろう…?

気になるけれど聞くのはこわくて、そしてトオイくんの名前すら出すのがくるしくて、結局、私はお父さんもお母さんもひどい、なんて見当ちがいの理由でふくれてみた。案の定お兄ちゃんにこづかれるいつもの光景を、ユウコさんは何もしらず、笑って見ている。

ちょうど2時間前、ヒトカゲとリビングから一時退散した私は、部屋にもどって身支度をかんたんに手早くととのえたあと、ユウコさんとふたり、それから妙におとなしいヒトカゲと、3人で食事の準備をした。

私だってそんなに料理ができないつもりじゃなかったし、私の家のキッチンだったから、道具の場所とかは私の方がしってて当たり前だ。だけど、それだけのハンディがあるにもかかわらず、ユウコさんはとても料理上手だった。

洒落たレシピをたくさんしっているみたいで、ハヤシライスをつくっている最中に赤ワインがないかとか、とにもかくにも私はすっかり満身創痍…おもに乙女心が、なんて言ったらさらにこづかれるから言わないけど。


「…ん!すごく美味しいですね」
「ふふ、なまえちゃんとヒトカゲちゃんがてつだってくれたんですよ」
「私はなにも…ユウコさんがすっごく料理上手なんですよ!」
「あーうん、そうだろうな」


ユウコさんに謙遜…というかはんぶん事実で否定した私のことばに、お兄ちゃんはあっさりうなずいたものだから、さすがに私もお兄ちゃんをじっとりと凝視しないわけにいかなかった。確信犯のお兄ちゃんは華麗なスルースキルを発動させて、私のにらみつけるをひらりとかわす。

また、ユウコさんが笑った。


「いいわね、兄妹って」


どうしてこの流れで…と思ったのは、今度は私ひとりじゃなかったみたい。あっという間に1人前食べおわり、おかわりをよそいに行こうと立ちあがりかけたところだったお兄ちゃんも、デザートに棒アイスを食べていたヒトカゲも、いっせいにユウコさんを見る。

ユウコさんは臆することはなかったけど、ちょっと真顔になった。ヒトカゲ、お兄ちゃん、そうして私を見てくちびるを動かす。


「本当よ。当たり前すぎて気がつかないだけで」
「……」
「かげっ!」


黙りこんでしまった私たち兄妹のかわりに、ヒトカゲが元気よくぴんっと手をあげて答えた。きらきらした緑色の目にユウコさんは笑って、ヒトカゲのあたまをなでる。どうやら共同作業のおかげで、ヒトカゲの不信感はすっかり取り払われたみたい。
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