novel | ナノ

正式なポケモンバトルを見るのは初めてで、どうしてこうなったのかもわからないまま、すこし奮い立つ私がいるのもなんとなく感じる。

近い側のトレーナーさんたちが出したのは、ヒトカゲといっしょにオーキド博士に示されたポケモン、ゼニガメの最終形態と……、よくしらないポケモンだった。

赤い身体に、鳥ポケモンのような足。トオイくんと逆側のとなりで何かが明るく光ったと思ったら、ヒトカゲのしっぽだった。ヒトカゲは薄暗い中でもわかるほど目をきらきらさせている。

あのポケモンが気になるのか聞こうとしてヒトカゲを呼ぶより早く、反対となりから名前を呼ばれた。


「とつぜん連れてきてごめんね」


シャウトしているみたいな歓声に負けじと、いつもよりずっとずっと近くで話すトオイくん。まるで耳に直接声を流し込まれてるみたいな感覚に、心臓が勢いよく跳ねた。

飛び出してしまうほどの勢いで暴れだした心臓に、思わず手をあてる。暗いのが幸いしてだれも気づいてないのがせめてもの救いだけど、寿命が縮んだことにちがいはなくてなんだかすごく悔しい。


「な…んで、謝るの?」
「本当は、もっと早く着くはずだったんだ。早めにオードリーたちと合流して、きちんと紹介する予定だったんだけど…」


熱気に浮かされたスタジアムに、トオイくんの声は不釣り合いなほど沈んでいる。理由を考えようとして、なんだか引っかかった。

……もしかして、私が待ち合わせ場所に遅れた…?

心の中をいやな予感が駆けたのは一瞬だった。相変わらず耳元で、ひそひそ話をするみたいに話すトオイくんが、一度切ったことばをつなぐ。

頭が真っ白になった。

ヒトカゲにするはずだった質問も、ひろがるバトルフィールドの激闘も、ポケモンたちを挟んだ先に座ったトオイくんの幼なじみたちも、すべて刹那的に記憶からとんだ。


「…僕がゆっくり歩きすぎたんだ。……ごめんね」


思わず振り向いたけれどトオイくんの顔はシルエットでしか見えなくて、いつの間にか聞こえるようになった実況さんが叫んだ。


「それでは〜、バトルスタート!」

110312
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