中は熱気と歓声に満ちていた。 照明が落とされ、スポットライトで照らされたスタジアムの、段々になった観覧席の真ん中にはバトルフィールドが見える。 席って何のこと、という質問は溶けていって、代わりにどうしてとか、なんでという疑問が頭の中でスパークする。 だけど聞く暇なんかなくて、早く早く、と相変わらず双子の女の子に急かされながら、私とトオイくん、プラスルマイナンとヒトカゲは客席を横切っていく。 「ここだよ!」 「すごい、こんなにいい席取れたんだね」 「当たり前じゃない、お兄ちゃんが出てるんだもん!」 「それ毎回言ってるよ、オードリー」 苦笑混じりのトオイくんの声は、次の瞬間出てきたトレーナーを迎える歓声に溶け消えた。わたわたとあわてだした女の子の影が、私の前にいたトオイくんの背中をぐいぐい押して、横に長いベンチの奥に押しこむ。それから、私も。 「早く早くっ、お兄ちゃん出てきちゃうよ!」 「…なまえちゃん、あとで私たちも自己紹介させてね」 「え……」 話しかけてくれたのがどちらの声だったのか、出会って数分の私に聞き取れるはずもない。トオイくんの背中を押していたのがオードリーと呼ばれた子なら、もうひとりの方なのかな。 それに意識を引かれたまま背中を押されるままに転がりこんだから、勢い余ってトオイくんの肩にぶつかってしまう。 かあっと、全身が熱くなった。 「ごっ、ごめんねっ!」 「ううん、僕はぜんぜん平気だけど…なまえこそ、大丈夫?」 「う、うん……」 やさしい声が居たたまれなくて、トオイくんの方を見れなかった。思わず振り払ってしまった感覚がよみがえる手を握りしめて、ひたすら眼下にひろがるバトルフィールドを見つめる。 出てきたトレーナーは、両端にふたりずつ。ナレーションはやたらと反響して聞こえないけれど、どうやらトレーナーさんの紹介をしているみたいだった。 ひとりひとりが手を振ったり、軽く礼をするたびに、ただでさえ大きな歓声が割れんばかりになる。 いかにも強そうなトレーナーさんがモンスターボールを宙に放り投げる、その一瞬の間がとてつもなく長く感じたのは、間違いなくとなりに座るトオイくんのせいだと思う。 軽く当たった肩が熱くて、集中できない。 110311
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