novel | ナノ

何のために呼ばれたのか、何があるのか、何も聞かされないままたどり着いたのは管理塔…いわゆるバトルタワーと呼ばれる、ラルースの象徴であり、トオイくんが動く歩道を歩けるようになった私を連れてきてくれた場所だった。

スイスイ歩けるようになって忘れていたけれど、来たばかりのころは町を歩くだけで一苦労だったんだ。

町中に敷かれた動く床、道を歩くホットドッグロボット、びゅんびゅん飛び回る四角いブロック型ロボット。今ではすっかり見慣れてしまって、むしろない方が違和感がするのかもしれない。

それほどまでにラルースに馴染めたのもきっとトオイくんがいたからで、私はカントーにいたころより毎日が充実しているのを自覚した。


「トオイくん、どこに行くの?」


管理塔のエスカレーターでどんどん上にのぼっていくトオイくんを追い掛けながら、だんだん不安になってきた。

人気は階を増すごとに減っていき、傘をたたんだヒトカゲも不安そうにまわりを見回している。

プラスルとマイナンは目的を知っているのか、うれしそうに耳をぴくぴくとさせて笑った。トオイくんも振り返って、にっこり笑顔を降らせてくる。


「管理塔の別名は知ってる?」
「え…バトルタワー…じゃないの…?」
「そう、バトルタワー。じゃあもうわかるよね?いちばん上に何があるのか…」


見たことのないくらいいたずらな笑顔に、思わずどきりと鼓動は跳ねるけど、それどころじゃない。


「ちょっと待ってトオイくん!まさか、」
「大丈夫、だいじょうぶ。ほら、こっち」
「ぷらっ!」
「まーい!」


あわてる私を尻目に、非常にもエスカレーターは最上フロアに私たちを導いた。

先にのっていたトオイくんが先にフロアに着くのが条理なら、あとから着いた私が不利なのもまた、条理にちがいない。

半ば強引に手首をつかまれて、トオイくんは私を引っ張ってフロアの奥に走りだす。後ろからヒトカゲも、プラスルとマイナンに押されながらついてきた。

向かう先から大きな歓声が聞こえてきてぞっとした。あんなにたくさんのギャラリーの前で、私、生まれてはじめてのポケモンバトルをしなくちゃいけないの…?

そんなの、無理に決まってる!


「トオイくんってば!」


大きなポケモンの強い技を想像してぞっとした私は、気がついたらトオイくんの手を振り払っていた。

離れた手にトオイくんが振り返るのがやけにスローに見えて、表情がつかめない。


「あっ、トオイ!やっと来たのね!」
「もう、遅いよ〜。はやくはやく、こっち!」


振り返ったトオイくんの表情は、結局見ることができなかった。横から飛んできた可愛らしい声に、今度は私もいっしょに首をめぐらせる。

そっくり同じ顔の女の子がふたり、にこにことこちらに手を振っていた。


「キャサリン、オードリー!リュウさんとショウタさんは?」
「ちょうどこれからよ。はやく!」


トオイくんの疑問に、オレンジ色の服を身につけた方の女の子が、こっちと手招きをする。

トオイくんは口元をほころばせたままうなずいて、私に視線を戻した。


「僕の幼なじみなんだ。席を取っておいてもらったんだよ。行こう」


ヒトカゲはもう、プラスルとマイナンに連れられて女の子ふたりの方へ行ってしまっている。

ピンクの服を着たほうの女の子がヒトカゲの頭を撫でて、ふと私を見た。昨日のうちから悩んで選んだ新しい服が、急に色褪せてしまったようにさえ感じる。

110308
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