novel | ナノ

ロンド博士はお仕事の関係で来たらしく、私がお母さんにうながされて給仕したお茶をすすりながら、お父さんと話し込んでいる。

私はそんなふたりをキッチンから盗み見ながら、お母さんとハンバーグをつくっていた。いつもなら明日のお弁当に入れる分もあわせて大小10個くらいつくればじゅうぶん足りるのに、今日は多めにつくるらしい。


「……まさか」
「だってあの調子じゃ、夕ご飯の時間に差し掛かっちゃうでしょ。ご馳走するのは礼儀よ」


それはそうだ、当たり前のこと。そんなことは私にだってわかってる。

だけどロンド博士はトオイくんのお父さんだ。この間までだったらただの「友達のお父さん」で済んだのに、認めてしまったからには緊張せざるを得ない。絶対へまや失敗をしたくないと思ってしまうのは、仕方がないことじゃないの?


「ヒトカゲちゃんも、みんなでおいしいハンバーグつくりましょうね」
「かげっ!」


ヒトカゲは相変わらず絵に描いたようなスマイルで諸手を上げる。さっき嫌いなはずの水で一生懸命手を洗ってたけど、そんなに傘がうれしかったのかな…。

せっせとお肉をこねて、まるめてつぶして。ぱちぱちと両手でキャッチボールをするみたいにして空気を抜く。

そういえば昔はよくお父さんとお兄ちゃんとポケモンとでキャッチボールをやっていて、だから男の子はみんなキャッチボールをするものだと思ってたけど……トオイくんもしたのかな。


「…すごく良い匂いですね」


気がついたら私がまるめているのが最後のひとつで、お母さんはもうフライパンに油をひいて焼きはじめていた。

お父さんとロンド博士がキッチンまでやってきていて、どうぞ食べていってくださいとふたりが笑う。思わず振り返ったとき、ロンド博士はお言葉に甘えて、とうなずいたところだった。

ぱちりと目が合った。博士の目はトオイくんと同じ色をしていて、それに気がついたとたんに、また心臓があの痛みを訴える。


「なまえちゃん、ご馳走になるね」
「あ…はい、」


気が利いたことが何ひとつ言えない自分に嫌気がさした。お父さんがまたロンド博士を案内してテーブルにつれていく。

ハンバーグをこねおわったヒトカゲが、手がねちょねちょでどこにも触れないせいかぺたりと両手をひっつけたまま、私を見ている。


「ただいま…、っと、失礼しました。こんばんは」
「あらおかえり、こちらはロンド博士よ。博士、うちの長男です」


だらっとした様子で帰ってきたお兄ちゃんは、お客さんがいると知るや否や完璧にあいさつをこなした。にこにこしたお父さんとお母さんが紹介する先で、やさしくほほえんだロンド博士はやっぱりトオイくんに似ている。

むしろトオイくんが、ロンド博士に似ているっていうのが正しいのかもしれないけど。

手を洗うためにヒトカゲと出た廊下は、真っ暗ですごく静かだった。

110217
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