novel | ナノ

床から天井までの壁一面に、色とりどりのちいさなランプが点在している光景はまるで夜空みたいだ。

言われたとおりに椅子に座った私の膝に、注意深くしっぽを抱えながらとび乗ってきたヒトカゲを抱きしめながら、ふとそんなふうに感じた。

ランプとともに壁にくっついているいくつかの小型モニタは、もしこれが宇宙なら、きっとブラックホールだと思うくらい真っ黒く見える。電源が切ってあるのかもしれない。


「…ヒトカゲ、もしブラックホールに吸い込まれたらどうなるのかな」
「…かげ〜?」


よく分からない、と首をかしげるヒトカゲの頭を撫でながら、本当にブラックホールとホワイトホールはつながってるのかな、なんて、よく知りもしない宇宙について考えてみた。


「…なまえ?」
「かげっ!」


いつの間にかトオイくんがお盆を持って来ていて、ふわりと紅茶のいい香りが鼻腔をくすぐった。

私より先に返事をしたヒトカゲが、いい匂いにつられてかぴょんっと私の手から抜け出して、壁ぎわのデスクにトレイを置いたトオイくんの傍に駆け寄っていく。


「あ、ちょっとヒトカゲ!」
「大丈夫だよ。ヒトカゲのぶんのポケモンフーズも持ってきたから」


はい、としゃがんでヒトカゲに何かを渡すトオイくんの顔が、ヒトカゲのしっぽの炎でよく見える。

うれしそうにそれにかぶりつくヒトカゲの炎がゆらゆら揺れて、トオイくんはにっこり笑ってから私を見た。

トオイくんの位置から見たら、私なんか中央の装置の影にしか見えないはずなのに、目がしっかり合ったとたんに心臓がどくんと動いた。


「なまえもおいでよ。ユウコさんが焼いてくれたクッキーもあるから」
「かげかげっ」
「ほら、ヒトカゲも呼んでるよ」


トオイくんはヒトカゲが味方したことがうれしいのか、一度立ち上がったのにまたしゃがみこんで、ヒトカゲ、美味しい?なんて聞く。

ヒトカゲはよろこびを体現したみたいで、トオイくんは飛び付かれてまたよろけて手を突いた。困ったみたいに笑う顔に陰影がくっきりついて、急に大人みたい。

それがなんだか悔しくて、だけどそれを顕にするなんて余計に子どもっぽいから、小さなため息だけで我慢して席を立った。

110203
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