トオイくんが引っ張ってきた場所には入り口よりもしっかりした扉があって、そこを通れば研究室みたいな地下の部屋にたどり着いた。 そこまで来て、トオイくんはくるりと私に向き直って何か言おうとしたんだけど、その時さっきまで気付かなかった傍らの液晶モニタがぱちん、と音を立てて点いたんだ。 弾けるように、トオイくんとふたりでそちらを振り向いた。つないだ手はするりと離れた。なんだかデジャヴ。 果たして、そこに映ったのはびっくりしたことに…私のお父さんと、その上司であり有名な研究家のロンド博士だった。何度かテレビで見たことがある。 私がお父さん!と上げた声と、トオイくんが不思議そうに父さん、どうしたの?と問う声が重なる。 思わず、みんな口をつぐんで互いの顔を見つめた。 「…そうか、きみの娘だったのか」 「えっ、なまえのお父さん?」 声を発したのは、トオイくんとトオイくんのお父さん。私とお父さんは声も出なかった。出なかったけど、頭のなかではああやっぱりと納得する私がいた。 「トオイから話は聞いているよ。新しい友達ができたって、」 「っ、父さん!」 なんだかうれしそうに私を見て話すロンド博士に、トオイくんは焦ったように呼び掛けた。 よくわからないけど、博士は楽しそうにははっと笑った。厳格そうな目が和やかになって、優しい人なんだってことがよくわかる笑顔はトオイくんに似ている。 「なまえさん、改めて。トオイの父のロンドです。きみのお父さんとはいつもともに研究をしていてね。素晴らしい学者だね、彼は」 「あ…りがとうございます。私も、いつもトオイくんにお世話になっています」 博士は初対面の私に丁寧に自己紹介をしてくれた。傍らでトオイくんとお父さんも何やらことばを交わしている。 そうこうするうちに私の驚きはおさまったし、ロンド博士は最初からあんまりびっくりしてなかった。 それなのにお父さんはいつまでもどぎまぎしていた。上司の前ではいつもあんな感じなのかな…ちょっと、それはそれで困るような気がするけど。 結局、博士の連絡は何やら専門的なことで、トオイくんに頼みたいことがあったらしい。 私にはよくわからない専門用語で3人は用件の会話をすすめるから、その間私は、ぽつねんと立っていたヒトカゲの傍にしゃがんで待っていた。 意外と、仕事の話をするお父さんはどぎまぎなんかしていなくて、知らない人みたいで不思議だった。 「…なんだか、すごいね」 「かげ〜?」 首をかしげるヒトカゲに、私は笑ってなんでもないよ、と頭を撫でた。それだけでうれしそうにするヒトカゲは、プラスルとマイナンがいなくて寂しいのかもしれない。 ハイテク都市…か。モニタに向かうトオイくんを見ながらつぶやいた、そのことばになんとなく弾かれてる気がして悲しくなった。 握りこんだ手のひらは、もうすっかり乾いている。 110109
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