novel | ナノ

トオイくんの家を出てみたらもう外は薄暗くなっていて、整備された街灯が明るく、静かに動く道を照らしていた。

トオイくんの家からゆらゆらといい匂いがする。ガーリックの香ばしい、食欲のそそるような香りはきっと、ユウコさん…トオイくんのお父さんの助手の、きれいな女の人がいるキッチンからの香りだ。

紅茶やお菓子を出してくれたユウコさんのきれいな所作を思い出す。それから連鎖するように、あわてふためくようなトオイくんの横顔も。


「…本当にいいの?」
「うん」


門の前で振り返った私を、トオイくんは覗き込むようにうかがい見る。それが何だかつらくて、私はふいっと目を逸らした。

ヒトカゲは今日一日たくさん遊んでくたびれたらしく、ボールの中ですやすや寝息をたてている。プラスルもマイナンも、かろうじて立ってはいるけれど眠そうにとろんとしていた。

こんな状態のポケモンもいるのに送ってもらうわけにはいかない。


「私は大丈夫。それよりもプラスルとマイナンを寝かせてあげて」


私が言うが早いか、ふらふらしていたマイナンがついにこてんと座り込んで、寝呆けたのかトオイくんの足にぎゅっとしがみついた。隣にいたプラスルも、それに倣うようにマイナンに擦り寄って目を閉じる。…すごく、可愛い。

思わず、もやもやも何もかも忘れて口元がゆるんだ。


「…やっぱり、送るよ」
「え?」


足にしがみついたマイナンとその隣ですやすやと寝息をたてるプラスルを抱え上げたトオイくんが、あまりに流れと真逆のことを言うからびっくりした。


「だめだよ、プラスルもマイナンも寝てるし。こういう時は、家でゆっくり寝かせてあげないと」
「うん、この子たちは家に置いていくよ。だからちょっと待ってて」
「でも」
「なまえが嫌じゃなかったら、送らせてもらえない?」


だめかな、と小首を傾げて尋ねるトオイくんは、私より背は高いし男の子なのに、なんだかプラスルとマイナンみたいに可愛く見えた。もしかしたら彼らを両腕で抱えてるからかもしれないけど。


「……、ありがとう…。じゃあ、お願いします」


畳み掛けるように言われたら、うなずかないわけにはいかなかった。トオイくんって肌も髪も瞳も色素が薄くて、儚い感じがしてたけど、実はすこし頑固なのかもしれない。

いくら可愛くても、すっぽり二匹を抱え込めるんだから、トオイくんは間違いなく男の子だ。

101215
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