novel | ナノ

そういえば何をするのか聞いてなかった。

トオイくんに会ったときはそれだけで精一杯だったけど、家に帰ってきた私は鏡の前でたっぷり落ち込んだから、今度はそうならないようにしなきゃ…。

いつもの時間、っていうのはたぶん2週間前の3日間を指してのいつもの時間であり、だとしたらもう時間がない。今だかつて、服装でこんなに悩んだことなんかないのに。

部屋に大きな鏡なんかないから、家族共用の洗面所まで服を確かめにいく。気に入らなかったら部屋に戻る。

繰り返していたせいか、朝ご飯をつくっていたお母さんや寝癖のまま起きてきたお兄ちゃんが、にやにやしながら私を見てきた。


「デートにでも行くの?」
「なっ、お母さん!?」
「へぇぇ、なまえがデートかよ!お前も生意気になったなぁ」
「お兄ちゃん!ちがっ、デートじゃないよ!」
「ふーん。ま、男子ウケ狙うならテキトーに露出多いのでも来てけば?」
「あんたそんな下品なのはだめよ!若い子は上品にいきなさい」


あわててぶんぶんと顔を振って否定したのにひるまない2人は、私の否定が照れ隠しだと思ってるからだろう。


「母さんの考えはもう古いだろうけど……ったく、しゃーねーな。これとこれ、着てけ」


じろじろと失礼なまでに私のクローゼットを眺めたお兄ちゃんがひょいひょい、とつまみ上げた服を見て、それからお兄ちゃんの顔をじろじろと見た。

なんだよ、と見返してくるお兄ちゃんがふざけてるようには見えなかったしもう時間もない。私はお兄ちゃんのコーディネートのセンスを信じることにした。

身だしなみを整えて、今度は寝癖だってちゃんと直して、しつこい癖はこてでゆるくカールさせた。

お財布やらハンカチ、家のカギやらを突っ込んだバッグを持つ。中にはもちろん、お母さんやお兄ちゃんがあれもこれもと言って持たせてきたいろいろなものも入っている。デートじゃないのに。

いってらっしゃいと頑張って、がまぜこぜになった変な挨拶を受けながらがちゃり、と家の扉を開いた。


「…なまえ」
「ご、ごめんね遅れちゃって…」
「ううん、大丈夫……だけど、なまえ」


トオイくんとプラスルとマイナンはもう、家の前の道角に立っていて、私をすこし見開いた目で見てから、ふわりと笑った。


「なんか、いつもと違うね」
「え…本当?」
「うん。いつものなまえもいいけど、今のなまえもすごくいいと思う」


あまりに明け透けに言ってくれるから、うれしい気持ちに恥ずかしさがまじってことばに詰まった。

トオイくんは私が赤面したのに気づかなかったみたいで、行こう、と言ってもう歩きだしていた。気まずくなるよりはよかったから、私もあわてて追いかけるように歩きだした。

とりあえず心の中でお兄ちゃんにお礼を言うのは忘れなかった。

101208
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