novel | ナノ

沈黙が、私とトオイくんの座ったブランコの間をうようよ漂っていた。

ヒトカゲはもうプラスルとマイナンと仲良く打ち解けていて、今はいっしょにジャングルジムに登っている。お互いに人懐っこいせいか、とても気が合うらしい。

それに引き換え私とトオイくんは、彼らがきゃいきゃいエキサイトすればするほど気が重くなる気がする。

何か話題………どうしてこんなとこに、とか、朝早いんだね、とか。何か違う気がするものしか浮かばない。


「……久しぶりだね」


私が途方に暮れて足元の砂利を蹴っ飛ばしたちょうどそのとき、私に破れなかった沈黙を、トオイくんが破った。

思わず足元から隣に視線を上げた。トオイくんはもうこっちを見ていて、ばちりと視線が噛み合う。頭の中で、今まで凍り付いてた何かが弾けた感じがした。


「そう…だね」
「元気みたいでよかった」


ちょっと心配してたんだ、とトオイくんは優しい微笑みみたいなものを唇に浮かべた。


「心配…って?」
「ちゃんと歩けてるかな、とか」
「…歩けてるよ。トオイくんのおかげで…」
「うん。あと…迷子になってないかなって」


静かな声音は、懐かしいというよりも初めて聞くような感じがした。トオイくんってこんなふうに話すひとだったかな…。

不思議な気持ちでトオイくんを見ていたら、トオイくんは私からジャングルジムへ視線をスライドさせる。


「でもなまえが朝早かったなんて知らなかったよ」


…やっぱり、悪意のない嫌味みたいな言葉は、紛れもなくトオイくんだ。

おかしくなって、いつの間にかゆるんだ唇から笑いがこぼれ出た。プラスルたちを見ていたトオイくんの視線が、また私の方に帰ってくる。


「なまえ?」
「トオイくん。私、ラルースのこともトオイくんのことも、もっと知りたい」


思わずするりと出てきた本音に、もちろんトオイくんはびっくりしたみたいだけど、私もびっくりした。びっくりした顔をしたトオイくんが、びっくりした顔の私を見つめる。


「なまえ…」


どうしたの、急に?とつづける前に、ジャングルジムに飽きたらしいヒトカゲたちが、めいめいに私たちにとびついてきた。

わ、と言って自分にくっついたプラスルとマイナンを見るトオイくんの横顔が真っ赤なのがちらりと見えて、いまさら私も恥ずかしくなる。なんか、すごいこと言っちゃった気がする…!

たくさん遊んで大満足のヒトカゲがにこにこしながら私にくっついているのに視線を落としたとき、ウィン、と静かな起動音がして、コンベアが動きだした。

101207
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