novel | ナノ

「あれ…」
「かげ?」
「…動いてない…?」


家の前の、ぴくりともしないコンベアにとび乗ったヒトカゲが不思議そうに私を見る。ヒトカゲにしてみれば、道路が動かないのなんか当然なんだ。ちょうど2週間前の私みたい。

ラルースも、夜中の間はすべてのものが停止して、朝になればまた動きだすんだっけ…?

トオイくんの説明を思い出してみようとしたけど、できなかった。

初めてできた友達だったけど、私のコンベアウォークが完成してからは顔を会わせることもなかったから、かれこれ10日くらい、トオイくんを見ていない。

たくさん親切にしてくれたし、たくさん話した。初めて手をつないで走った男の子なのに、実際に会っていたのはたったの4日間だったなんて嘘みたいだけど、もうぼんやりとしか思い出せない表情がその証拠だった。

会いたくないわけじゃなかったけど、何しろ今まではトオイくんが私の家の真ん前に来てくれてたから、私からトオイくんに会いに行くのは不可能なわけで…。


「か〜げ?」
「…あ、ごめんヒトカゲ。公園行こっか」


ぼーっとしてたらしい私に痺れを切らしたヒトカゲは、ばたばたと小さな腕を振りながら喜んで歩きだす。

どうしようもないことはわかっていたけど、今日の午後は管理塔にもう一度、行ってみようかな…警備の人でもいいから、とにかく夜間が止まってるのかどうか聞くために。

それで…もしその時トオイくんに会えたら、家を聞いてみよう。

ヒトカゲが道も知らないのに先走って何度も道を逸れようとするから、私は小さなオレンジ色の手をつかんで歩く。

しっぽの炎がすこし強くなり、すごくうれしそうに小さく甘え鳴いたヒトカゲは、とても可愛いけど危なっかしくて、だから公園の入り口に着くまで、気がつかなかった。

家にいちばん近い小さな小さな公園のシーソーがきいきい軋んでいるのにも、その原因は赤と青の二匹のポケモンだってことにも。

そして傍のブランコに腰かけてるのが、水色がかった白い髪の毛だということにも。


「ぷらっ!」
「まいっ!」
「あ……なまえ?」


トオイくんとあの2匹が、どうしてか、何の魅力もない小さな公園にいた。

101206
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