novel | ナノ

時刻はちょうどおやつの時間で、ラルースシティでは有名なお店だとなれば、長い列ができているのも理解はできる。

長蛇の列を見たときは食べる気がさらに失せたけど、プラスルたちが言い張るものだから、そしてトオイくんが大丈夫だと言い張るものだから、おとなしく並ぶしかなかった。

正直、これくらいならあっという間だよ、なんて言うトオイくんを疑ってしまったんだけど、……杞憂だったみたい。列のはけ具合は見事なものだった。

もしかしなくてもたぶん、これもハイテクな何かが関わってるに違いないってことは、わかるけど。

「ね、早かったでしょ」
「…うん」

そこここに座っている人たちを見習って、私たちもアイス片手に4人?でレンガづくりの花壇に腰掛ける。

プラスルとマイナンが美味しそうに、フランボワーズとレッドカシスのリボン入りバニラを食べる横で、私は納得できないでいた。


「……なまえ、美味しくなかった?」
「ううん、違う、美味しいよ。そうじゃなくって」


プラスルとマイナンを挟んだ反対側でモカコーヒーのフレーバーを舐めながら、トオイくんは心配そうに尋ねる。

私は奢ってもらっちゃったサワーレモン味のアイスを、ちいさなスプーンでつつきながらうつむいた。言わなきゃわからないものかな…。


「…私がお礼に奢ったのに、奢り返されちゃったから、意味なくなっちゃったな、って思って…」


トオイくんはびっくりしたように私を見て、それから眉根を寄せた。あれ……怒った?


「意味はなくなってなんかないよ。君のはお礼で、僕のはお祝いだから、ぜんぜん違うし」


お祝いって…本気だったんだ…コンベアが歩けるようになったからってお祝い…。たしかに今までの私から見たら十分祝うべき事柄なんだけど、それを他の人から言われるとすごく恥ずかしい。


「ねえなまえ、それって、単なる謙遜だよね?」
「……?」


質問の意図がわからなくて首をかしげたら、トオイくんはまだ半分以上残ってるアイスを見つめながらことばを続ける。


「たとえば…僕に奢られたくなかったとか…、そういうので言った?」
「…奢ってもらってうれしくないはずがないよ」
「…本当に?」
「トオイくんだって、そうでしょ?」


素直に二重肯定するのもなんだか変な気がして質問で返した。うん、と素直にうなずくトオイくんはやっぱり、同い年には見えないくらい幼く見えた。

いつもこれなんだ、と笑って頼んでたモカコーヒー味のアイスが、ちょっと似合わないくらい。


101205

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