novel | ナノ

トオイくんは根気強く、そしてとても優しかった。

ああは言っても、トオイくんだって私の機械オンチぶりを見ればすぐにあきらめると思ったのに、なかなかそんなことはなく。


「ふつうに歩けばいいんだよ」
「ふつう、に、やってる、の、これでも!」
「なまえは、床が流れてる流れてる、って意識しすぎなんだと思うけど…」


うーん、とトオイくんが悩む間も、へたりこんだ私と傍らに立つトオイくんはぐんぐん流されていく。

プラスルとマイナンが、ちょっと先に走って行っては、逆向きのコンベアに乗って帰ってくる。その慣れた感じがうらやましくてじっと見ていたら、黙り込んでいたトオイくんがようやく復活した。


「わかった、手をつなげばいいんだ!」
「……手?何、どういう意味?」
「前にテレビで見たことがあるんだ。スキップができない子どもは、手をつないで一緒にスキップすることで、できるようになるって」


ほら、と手を差し伸べてくるトオイくんを見上げたら、なんだか突然、異様なくらい恥ずかしくなって顔が火照った。

スキップとコンベアウォーキングはちがう気がするって言えばよかったのに、そんなことにすら気づかないくらい動転していた。

さっき助けてもらったときだって手を差し伸べられたし、その時はなんの気なしにそれを受けることができたのに、どうしちゃったっていうんだろう、私?


「なまえ?」
「いっ、いいよ」
「だめだよ、歩道には慣れないと」


出歩けなくなったら困るよ、と言い張るトオイくんは、優しくて繊細なイメージなのに意外と、意志が強いのかもしれなかった。

根負けしてトオイくんの手を取ったら、この前よりも強い力でぐいっと引っ張り上げられる。リハビリみたいに私の両手を取って歩くトオイくんが、男の子にしか見えない。

101202
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