くすくす、とトオイくんはまだ笑っている。 「そんなに笑わなくても…」 「だって、すごく大きな声出すから何事かと思ったら…」 だってひどい顔だったんだもん、と私は拗ねたい気持ちになる。 トオイくんは男の子だからあんまり写真映りとか気にしないのかもしれないけど、女子は結構気にするものなんじゃないのかな。 「…ねえ、あれって撮り直せないの?」 「ラルースに入り直せばできなくもないけど…」 「本当!?」 「でも手続きと、換金したお金は全部無効になっちゃうよ」 一瞬上がりかけたテンションが急降下して、さっきよりも低くなってしまった。これからあの写真が身分証明になることは変えられないらしい…。 さっきと交代というルールでもあったのか、今は私の肩にマイナン、トオイくんの肩にはプラスルがいる。マイナンが慰めるように私の肩を叩いた。 「大丈夫、僕は別におかしいなんて思わなかったし」 「うそばっかり…笑ってたくせに…」 「あれは君の叫びにだよ」 すごかったね、とまた笑いだすトオイくんは、私を慰めたいのか落ち込ませたいのかわからない。悪意はないってことだけはわかるけど。 笑いながら片手で持ったパソコンに目をやり、トオイくんは気を取り直すようにふぅ、と息をついて笑うのをやめた。 「さて…じゃあなまえ、君の家まで案内するよ」 「……家…」 「え、帰りたくないの?」 私が勢いよくうなずくと思ってたらしいトオイくんは不思議そうに私を見た。 帰りたくないはずがない。むしろ迷子になったんだから、早く家に帰りたい。…だけど…。 「あの…。ふつうの道って、ないの?」 「ふつうの道?」 「つまり…」 これを言うにはすごく勇気が要った。打ち解けたとはいえ、トオイくんとはまだ友達じゃなく知り合いレベルなのに、自分の欠点を自分から明かすなんて恥ずかしい。 だけど、私が知りたいことを聞くにはそれが必要だった。 「つまり、コンベアじゃない道はないの?」 「…そっか。苦手なんだっけ…」 独り言みたいにつぶやいたトオイくんは、申し訳なさそうに答えた。 「ごめんね、ラルースシティは水の都アルトマーレみたいに、ハイテク完備なんだ…」 「…だよね」 期待してなかったから落ち込みは少なかったけど、でもテンションが下がるのは必須。 それを見兼ねたのか、トオイくんはそうだ、ととびきりの思いつきを披露してくれた。 「僕が教えてあげるよ!」 「え……何を?」 「ハイテク都市ラルースの楽しみ方を!」 …かくして、機械オンチな私のハイテク化は始まった。 101202
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