だってまさかだれも思わないでしょう?何なの、あのフェロモンは。一気に私より年上の、男のひとみたいな顔つきしちゃって。 叫び声を聞き付けてお母さんがやってくる足音が聞こえる。 ふっふっふ、これで私の勝ちだ。不法侵入でジュンサーさんに突き出されるがいい…! 「…ってーなぁ…。なまえ、意外と乱暴だな」 ベッドから落ちた男の子は、腰をさすりながら身を起こす。そしてようやく足音を聞き付けたらしく、一瞬身体を強ばらせた。 ほぅら、やっぱりシャワーズだなんて嘘っぱちなんでしょう?と確信したときだった。彼が、勝ち気な笑みを浮かべたのは。 「……ま、ちょうど良いかもな。後々面倒だし、この際なまえの母さんにも、確かめてもらおうぜ」 「な…っ、あんた一体何を企んで」 「なまえ!何よさっきの悲鳴…は…」 問い詰めてた私の声をさえぎって、勢いよく開いた扉の向こうで、お母さんが固まった。 ……。ちょっと待って。いま私も、シャワーズと言い張る男の子も、同じベッドにいるわけで。………これってかなり、いや相当マズくない? 「な…な………なまえ…あなたって子は…」 「あわわわわわ!ちょ、ちょっと待ってお母さん!これには深いワケがっ!」 「お母さん、僕をご存知ないですか?」 「はぁ!?」 わなわなと震えるお母さんに、あろうことかこいつは甘えた声で………何、命乞い? 信じられないこいつ。一人称まで変えて、可愛こ振っちゃって!さっきまで年上みたいだったくせに、急に年下にしか見えなくなるし。 私もお母さんもいまどんな思いでいると思ってんのよ、と隣をにらむと、かち合った瞳は意外なくらい真剣だった。 そういえばお母さんも黙ってしまったみたいだ。 「あなたを……?…あらもしかして…あなたはポケモンかしら?」 「はい!やっぱり、さすがお母さんだなぁ。僕はシャワーズです」 「あらぁやっぱり!まぁまぁ、あなたも血筋なのねぇ…。立派になっちゃって、ますますお父さんに似てきたんじゃない?」 「ありがとうございます、お母さん」 私はお母さんの最初の発言に度胆を抜かれてしまって、しばらく、盛り上がるふたりの間に入ることさえできなかった。 「…あのぅ…」 「あらなまえ、よかったわね、新しいお友達ができたじゃない」 「僕は元々なまえのポケモンですから、新しくはないですけど…」 「あら、でもお話できるようになったんだから、似たようなものじゃないかしら。ねぇ、なまえ?じゃあ朝食はできてるから、早く着替えて降りてくるのよ〜」 聞いたくせに返事する間もくれなかったお母さんは、うたうように忠告して部屋を出ていった。 意味が分からない…。途方に暮れた私に、青い髪の男の子はまた、あのむかつく笑みを向けてきた。 「ね、わかっただろ?オレの言ってたことが本当だって」 「……」 本音を言えば、納得できない。お母さんがおかしくなった、としか思えない。これじゃあどう見ても、非常識なことを常識だって言われてるのと一緒だ。 「釈然としない顔だな」 「だって釈然としないもん」 「疑り深いなぁ、我がご主人は」 大袈裟なまでに吐くため息に、さっきまでお母さんに向けてた可愛さの欠片なんてひとつもない。 やっぱりうそだ、私のシャワーズはもっと愛想があって可愛いし、甘えんぼに見えて頼もしかったり…イーブイのころから、そんな感じだった。 「いま失礼なこと考えてただろ」 「なっ、そんなことありません!」 「うそつくなよ、なまえのことならだいたい分かるんだぜ、オレ」 ……。もしこれでシャワーズじゃなかったら、ストーカーとして訴えてやるんだから!美形だからって何でも許されると思うなよっ! 「……じゃあどうやったら私が信じるかも、わかってるんだよね?」 「……やんなきゃだめか?」 「信じてほしいならね」 「……わかったよ」 なまえに疑われたままなのも、冷たくされるのも嫌だからな…とかなんとかつぶやいて、そして、……信じたくないことに。 まるでポケモンの進化が始まったみたいな光がほんの一瞬だけ走り、私の目の前には、見慣れた相棒がいた。 得意気な様子でこちらをまっすぐに見上げる青いシャワーズ。 「……うそ」 まさか本当に、6年近く一緒にいたシャワーズが、あんなだったなんて知らなかった。 だって今まで一緒に旅したり、一緒に寝たり、一緒にお風呂に入ったことだってあったのに。 オスだっていうのは知ってたけど、だってほら、ペットみたいな感覚っていうか…。 どうしよう。いやどうしようもないんだけど。だけどでも、やっぱりどうしよう。 またしても絶句した私に、小馬鹿にしたみたいにくるりとしっぽを振って、シャワーズは一声鳴いた。 疑問符狂騒曲〜独奏 (誰か説明して!) ノリ良く、ギャグちっくにいきたい。 20100727
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