ネバーランド 「そんなに拾ってどうするの?」 スズねの小道は、さくさくと落ち葉が黄色や赤色になっていて綺麗で、しゃがみこんで拾っていると横にマツバさんが同じく腰を落としてきた。 一枚、手にとってマツバさんの目の前でひらひらさせた。秋は空気が乾燥しているからか、視界がきらきらしている。 「焼き芋焼いてみたいな〜…とか」 「落ち葉で?あれ結構めんどくさいよ」 「そうなの?」 「うん。すごくたくさんの葉っぱいるし、ぼうぼう燃えている中につっこめばいいわけじゃないし」 「そうなんだ…」 夏に川で魚をとって焼いて食べるように、秋には落ち葉で焼き芋を焼くのは風情とか、そういうものがあっていいなと思ったんだけど。 思ったよりも手間がかかるのかもしれない。 マツバさんがめんどくさいって顔をしている。 ってことは、一緒にすることを前提で考えてくれていたのかなとか、都合の良いほうにしか解釈できない。 私の頭は私を中心にして回っている。 ぶんぶんと首を振った。 「マツバさんは?やったことある?」 「なにを?」 「焼き芋」 「あるよ。毎年」 「え、してるんじゃないですか」 「してるよ。ジムの人たちとか、舞妓さんたちと」 手が乾燥しきった葉っぱを握りつぶしてしまった。 なんて?ジムの人たち……は、いいとして、舞妓さんって? ご町内の付き合いとかなんだろうか。それともごく個人的に、あの綺麗な人たちと楽しくキャンプファイヤーでもしたのかな。 私は一気に地面の底まで突き落とされた気持ちになる。 マツバさんのほうが年上だった。 私の知らない世界も持っていて、そこには入り込めない部分もあった。 経験値が全然違う。今日明日で埋められる差ではない。 それでも、慣れてきたと思っていたのに。 「…って言ったら、嫉妬する?」 「え?」 「やきもち。焼く?」 「……マツバさん最低です」 嘘なのか本当なのかは分からないけど、私をからかったのは絶対の本当。 集めた葉っぱを地面に放って、立ち上がる。手の平をぱっぱと払う。 マツバさんも倣って立ち上がったけど、気付いてないふうを装って目を向けなかった。 「葉っぱいらないの?」 「いいです」 「焼き芋、なまえちゃんも来る?今度するとき」 「い、い、です!」 何が焼き芋だ。こんな話、しなければ良かった。 エンジュシティで堂々と歩いていると、マツバさんはどこからか湧いて出てきた着物のお姉さんやおばあちゃんを寄せ付けるから、こうして誰もいないところでしかゆっくりできないのに。 マツバさんは親切で優しくて、そうやって話しかけてきた人をないがしろにできないから、私は我慢しなきゃならない。 困らせたくない私は我慢をするべきなんだけど、するたびにお腹がきりきりしてしょうがない。 「ごめんごめん、怒った?ごめん」 ずんずん歩いていると後ろから弾んだ声がかけられる。 思ってない。ごめんとか、ひとかけらも思ってない。 「怒ってないです」 「なまえちゃん」 手首を掴まれて、思わず立ち止まった。 ぐるりとまわされた手首と、晒された手の平。ぽんと一枚、葉っぱを乗せられる。 「綺麗だよ、これ。持っていきなよ」 やわらかく笑って言われると、ぽいっと捨てることなんてできない。 受け取った葉っぱだけを見つめ、マツバさんとは目を合わせないようにして小さく頷く。 くるくると回すと言うとおりに綺麗で、やっぱり燃やすのはもったいないなあと思う。 そうしているとマツバさんの手が私の頭に乗っかり、見上げるとやっぱり笑っていた。 「マツバさん、嬉しそう」 「ん?嬉しいよ。なまえちゃんが嫉妬してくれてるから」 「はあー」 嫉妬してるなんて一言も言ってないんだけど。いや、してるんだけど。 そういうのも分かっているんだろう。ズル技だ。 「嫉妬してくれるくらいじゃないと、寂しいよ」 「……本当にそう思ってますか?」 「思ってる思ってる」 「思ってなさそう」 「思ってるって」 口調が軽やかだと分からない。 マツバさんほど相手の気持ちが読めるわけではないから、うんと考えなきゃならない。 あと何年か歳をとって、同じ目線でものを見ることができるのなら、私はすぐに大人になりたいと思う。 けど、差があるからこその今の関係だとしたら、このままがいいと思う。 嫉妬しているのが嬉しいと言うマツバさんの言葉が本当であるなら、私はすんなり受け入れることができるんだけど。 残念ながら全っ然分からない。 「今度は、街を散歩する?」 「絶対嫌です」 マツバさんが嬉しそうに笑う。その手は私の頭を好きなように掻きまわしてきて、もぞもぞとくすぐったい。 こんなこと、街中ではとてもできない。だからまだここでいいと思う。 小さくゆっくり、自分のペースで進んでいけたらいいと思っている。 20101023 / 相互記念:聖火さん ***** あーちゃんから相互記念にいただきました!ありがとうございます、すごく幸せです(*'▽`*) あーちゃんの書くマツバさんが、すごくおとなっぽくて自然で、大好きなんです! お願いしたのが秋だったので、秋のエンジュシティをお散歩〜とか意味不明な無理をお願いしてしまったのですが、こんなにすてきな作品をいただけるなんて感激です…さすがあーちゃんです…! すこし意地っ張りな主人公が可愛いやら、大人で余裕なマツバさんがかっこいいやらにやにやが止まりません…← あーちゃん、本当にありがとうございました! |