novel | ナノ

新しいアジトに移ってから一カ月と二日。まさかの掃除から始まって、先輩は一人萎えていたけれど、漸く与えられた仕事部屋や寝室に先輩は機嫌を取り戻した。デスクも寝室も勿論隣。私と同じ寝室のモカさん達は嫌そうだったけど、嬉しそうに毎朝部屋の前で待っている先輩に何にも言えなくなってしまったらしい。
そんなこんなで上機嫌な先輩と昼食をとり終えて仕事に戻ろうと並んで廊下を歩いていると、ガシリと肩を掴まれた。


「楽しそうに歩いているところすみませんが」

「ら、ランス様」

「何か用ですか?」

「ええ、勿論」


誰が見ても分かるくらいに不機嫌そうな顔をしたランス様に、隣にいた先輩が一歩後ずさる。そして、ランス様は薄く笑った。


「出掛けますよ」

「……出掛ける?私がですか?」

「ええ」

「ランス様と?」

「ええ」

「先輩も?」

「有り得ませんね」


先輩が悔しそうに涙を堪えているのを横目で見て、少しだけ可愛いと思ってしまった。








「ランス様、何処に紅茶を買いに行くんですか?」

「…………」


どうやら今までの紅茶に飽きたらしく、新しい紅茶を買いに行くのだとランス様はあの後廊下で言っていた。それからランス様と出掛けるということをモカさん達に伝えれば、何故だか嬉々とした表情で私服に着替えさせられた。別にデートでもないのに。まあ、久しぶりに二人になれたから、嬉しいけど。普段はあまり着ない如何にも女の子らしい服に違和感を感じながら、黙りを決め込むランス様の一歩後ろを歩く。


「……ランス様?」

「な、や、止めなさい!」


様子を窺うように隣に並んで顔を覗き込めば、少し赤い顔で怒られてしまった。何故。まさか、照れているのだろうか。しかし、何に?
意味が分からないまま、兎に角何時もの調子が出ていないランス様を仕方なくまた一歩後ろからついて行く。が、いつの間にか人通りの多い道に出ていたらしく、ランス様との距離が少しずつ開いていった。あ、ちょっとヤバい、このままじゃ逸れちゃうかも。そう思ってランス様に視線を送ろうと顔を上げれば、ランス様は既に立ち止まって私を待っていた。


「やはり犬にはリードが必要なようですね…」


買いに行きますか?ニヤリと笑ったランス様は、漸く何時もの調子に戻ったらしい。全く嬉しくない台詞だったけれど、安心した。


「遠慮します」

「おや、そうですか?」


ランス様は残念、と肩をすくめて歩き出す。が、数歩歩いたところでピタリと立ち止まり、私を振り返って何やら難しそうな顔をした。
どうかしましたかと私が口を開くよりも早く、ランス様が私を睨みながら口を開いた。何故、睨む。


「……なまえ、あなた、歩くのが遅いですよ」

「ランス様が早いんですよ」

「ああ、すみませんね。足が長いので」

「…………」


ランス様は一度笑ったが、直ぐにまた私を睨んできた。だから、何故。もしかしてそんなに歩くのが遅かったのだろうか。
一人考えていたら、急に目の前に手が差し伸べられる。驚いて手の持ち主であるランス様を見れば、ランス様はやっぱり私を睨みながら口を開いた。


「…手を繋いでやらないことも、ないですよ?」

「………手を、ですか?」

「冗談ですよ今のは聞かなかったことにしなさ、」


素早く手を引っ込めたランス様が言い切る前に、私はランス様の手に触れる。アポロ様がいつか言っていた、ランス様はプライドが高いと。だからこれを断ったりなんかしたら、ランス様はきっと不機嫌になる。
それ以前に、繋ぎたかった自分もいたりするけれど。


「……………」

「ランス様、手を繋がせて頂いても?」

「……仕方ありませんね」


ふんっとそっぽを向いたランス様の手は大きくて、少しだけ熱かった。久しぶりにランス様にちゃんと触れた気がするなあ。なんて思っていたら、ランス様の手が私を離さまいと強く握ってくる。


「ところで、結局何処へ?」

「…あんなの、口実に決まっているでしょう」

「…はい?」


薄く笑って私の手をひくランス様に、私は首を傾げた。ランス様は呆れたように小さなため息を吐いて、私の耳元で囁くように言う。


「なまえと、二人きりになりたかっただけですよ」


ああそうそう、今日の服、似合ってますよ。涼しい顔をしたランス様を見て驚く私の顔は、きっと真っ赤なんだと思う。








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聖火さまに捧げますっ( ^ω^ )


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田所さまにいただきました!
相互記念とか言って駄文を押し付けたらこんな素敵な小説をくださって…感涙。

もう嫉妬ランスさん格好良いやら可愛いやらで!←
何だかんだで開き直っちゃったら恥ずかしくなるせりふをばしばし言ってくださるランスさまが好きです(おい)そうしてこのヒロインちゃんも可愛いv

田所さまの連載作品の番外として書いていただきました。本編もオススメです!最高ですよ!そうして先輩も好きな私は、こんなに素敵な小説をいただけて本当に幸せ者です…(*´∀`)

田所さま、本当にありがとうございました!
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