夏休み企画より抜粋 カツーン、と一歩歩くたびに音が響く。それがやけに不気味で、私は不安感を押し殺せずにいた。 「ダイゴさん」 「大丈夫」 返ってくる言葉に、全然大丈夫じゃないですよ、なんて言うような聞き分けの悪い人間にはなりたくなくて、つないだ手にさらに力をこめる。先を行くダイゴさんはしっかりと握り返してくれた。 私はいま、見とれてしまうくらいきれいに長い指に触れている。暗闇のなかで思い描けるくらいにそれを見ていたなんて恥ずかしい。…でも。 …握り返してくれるんだけど、ダイゴさんの頭の中はもう、これから出会うだろう石のことでいっぱいなんだ。私が、薄暗い洞窟のなかで、ダイゴさんとふたりきりなのを強く意識してるのと同じくらい。 「ほらなまえちゃん、見てごらん。これはたぶん、火成岩の一種で…」 天井に穴があるのか、さっきより少し明るいとこに出た途端、ダイゴさんの指が離れていく。足元にある石を拾い上げるため、…なんだろうけど、また強い不安感に教われた私は思わず、ダイゴさんの腕にしがみついた。 甘えたかったわけじゃない。私たちはそういう仲じゃない。ただ怖かっただけ。だってこの洞窟真っ暗なのに、ダイゴさんは慣れているからとか言ってフラッシュをさせないから。 差し込んでる光に石を透かすようにして持っていたダイゴさんは、私がしがみついた途端に説明をやめた。 そうして、しがみついた私をすっぽり包み込むように手を回してくる。…片手に、石を持ったまま。それなのに石が私に当たらないのは、彼の手が石を包み込むくらい、大きいからだ。 背に回ったもう一方の手の指が、私の背をとんとん、とリズミカルに優しく叩く。頭の上で、静かな声が尋ねた。 「…怖い?心音が早いね」 「……」 「なまえちゃん?」 どうせ私を恐がらせるためにやったんだ、とわかってるのにうなずくことしかできないのも、きっとダイゴさんはお見通しだ。 「別に僕はこうしていても構わないけどね」 カタン、とそばで音がした。…え。な、何? ますます強くしがみつけば、背を叩く手とは別の手が、そっと頭に触れてきた。……あれ、石、は…? 「そんなにくっつくと、君が困ることになるかもよ?」 ふたつの手のぬくもりにようやく、さっきのあの音は、ダイゴさんがあの石を落としたんだ、というあり得ない事実に気付いたときには、私の身体は宙に浮いていた。 「え、え!?」 「ほら、困ったことになったね?」 してるのはあなたでしょう、と大いにつっこみたい! 横抱き…いわゆるお、お姫様抱っこなんて、一生に一度あるかないかなのに、なんでこんな暗闇で…。 それでもじっとしてるのは、暴れて暗闇の中に落とされるのが怖いから。…別に、嬉しいからじゃないんだから…。 「…なまえちゃんて、ツンデレだよね」 「違います!」 さっきまであんなに怖かったのに、ダイゴさんの楽しそうな笑い声が響く洞窟は怖くないなんて、…絶対に、言ってやらない。 Thanks;揺らぎ |