novel | ナノ

夏休み企画より抜粋

部屋のほとんどの空間を占めるホエルコに、私は目が点になった。隣でユウキくんが何かいろいろ言ってたけど、何も耳に入らない。


「……やっぱりユウキくんて、ぬいぐるみ好きだったんだね」
「だから違うって。これはもらいものだって言ってるだろ」
「…ぬいぐるみくれたの?」
「そう」
「どこで?」
「ルネ」
「……ミクリさんから?」
「違う」


首をかしげた私に首を振ったユウキくんは、本日記念すべき十回目のため息をついた。


「……なまえさ、オレの話聞く気、ないだろ」
「そんなことないよ?」


言いながらも実は私は、ユウキくんより目の前のホエルコ人形に夢中だ。そんな私を見て、ユウキくんはまたひとつため息をつく。


「ユウキくん」
「何だよ」
「……乗ってもいい?」


私が尋ねれば、どうしてか、ユウキくんは拗ねたような顔になった。


「……いいよ」
「ありがと!」


よじ登って上に転がる。うん、寝心地は最高!私は不機嫌なユウキくんを呼んだ。また何だよ、とか言いながらも登ってきたユウキくんは、私の隣で寝転がる。ようやく機嫌が直ったみたいで、今日はじめて笑った。


「……まぁ、こんなんなら置いといてもいいかもな」
「やっぱりぬいぐるみ好きでしょ」
「そうは言ってない」


認めたっていいのになって思ったら、ユウキくんは体を起こした。ふかふかなホエルコが歪んで、私は崩れたバランスに逆らえずユウキくんの方に倒れこむ。


「わ!…っと、ごめ」
「だってなまえの方が好きだろ?」


こういうのはさ。

難なく私を後ろから抱え込むようになったユウキくんが、私の膝にちょこんと置いたもの。恥ずかしいのに不思議と嬉しくて、それが伝わる体温のせいなのか、膝に乗るふわふわした赤い塊のせいなのか分からない。


「……ありがと…」


私がその赤い頭を撫でるのと同じように、ユウキくんは私の頭を撫でた。なんだか無性に恥ずかしくてたまらない。だけどホエルコから滑り降りる気にはならなくて、どうにか気を紛らわせようと、私は尋ねた。


「…これは、買ったの?」
「まさか。もらったんだよ」
「…またルネ?」
「いや。これは、マユミさ…パソコンの、転送ボックス作った人に」
「…そうなんだ」
「うん」
「でもどうして、アチャモ?」
「……さあ?それをくれたから」


余ってたんじゃないかな、なんて言うユウキくんに、私はふうん、とつぶやいた。

ホエルコから見下ろすベッドの上で、ユウキくんのラグラージが入ったモンスターボールがカタカタゆれてたけど、私もユウキくんも気づかなかった。

Thanks;揺らぎ
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