novel | ナノ

夏休み企画より抜粋


ざわざわとしてしまった。不覚にも。

レッドが人気なことなんて、ずっとずっとずっと知ってたはずなのに。……でもやっぱり、知ってるのと実際に見るのとでは、全然違うみたい。


「……レッド」
「なまえ」


ちょっと目を見開いたクラスメートは、たった今もらったんだろう可愛らしい封筒を、さっとポケットに突っ込んだ。

それだけのことなのに、レッドがあの女の子の想いを、制服の内側にしまったことが、なんだか悲しい。……なんて、ばかみたい。私は言う勇気さえないのに。


「………見てたの」
「………」
「……見てたんだ?」
「……まぁ、ね」


なんだかばつが悪くてつぶやけば、レッドは呆れたみたいにちいさなため息をついた。風が冷たく感じる。まだ、夏の終わりなのに。


「……ごめん」
「……」
「何、驚いてるの?」
「まさかなまえが、素直に謝ってくるなんて思ってなかったから」
「……失礼な」


レッドが言うことの方がきっと一理ある。それが分かってるから悔しくて、私はレッドの目から目を逸らした。


「私だって謝るよ」
「……ふうん?」
「なっ、あのね、ほんとだよ。……邪魔、しちゃったし」
「邪魔?」
「うん。だってレッド…」


言い掛けて、私は口を閉じた。レッドは何、と言うように首をかしげる。さらさらと流れる髪が妙に艶っぽくて、悔しい。私はくちびるを噛んでうつむいた。

言えるわけない。言ってうなずかれたら、私はもう生きていけなくなる。


「……。そんな理由なら、謝らなくていい」
「………えっ?」


おおよそレッドとは思えない言葉を聞いた気がして、顔を上げて聞き返したのに、レッドはもう、日陰の校舎裏から歩きだしていて、私たちの間は結構開いていた。


「ちょっと、レッド!」
「……帰る」


あわてて呼びかけながら走って追えば、レッドはゆっくり振り返った。きれいなアングル。口元には笑みが浮かんでいる。私にとってはろくでもないことを思いついたような顔…な、気がする。


「……なまえ」
「なに」
「見物料として、おごりね」
「………は!?」


やっぱり、私の読みは当たってしまったらしい。あまりのことにあんぐり口を開けて固まった私を、レッドが真顔で、少しも目を逸らさずにみつめてくるから適わない。


「あーもう!はいはい分かりましたよ!」
「いつもどうも」
「ちっとも思ってないくせに」
「まあね」


また思わぬ出費かぁ…なんて思いながらも財布の中身を思い出しながら勘定してる私は、本当に、真のばかみたいだ。

少し寒いくらいなのに、ちなみにアイスね、なんてつぶやくレッドに少しびっくりしつつ、私とレッドは一緒に、何度目かの帰路に着く。

日が短いことにふと気付いた。もう、夏が終わるんだ。


Thanks;揺らぎ
イメージはグリーン長編「やわらかな愛」の甘党レッドくんです(笑)

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