novel | ナノ

夏休み企画より抜粋


いつの頃から、だろうか。もうずっと当たり前になってしまっていて、そしてこれからもそれは続くんだと、自然とそうなってしまっていた。

だから目の前で美しい九つの尾を広げる純白のキュウコンに、僕は正直、信じられない気さえした。…負けた…。まさか彼女が、ここまで強くなるとは…。

僕がこの前出かけた先っていうのは実は、石を集めるためなんかじゃなくて、ジョウトにホウエンの伝説のポケモンが出没したといううわさを確かめるためだった。

だからなまえちゃんに約束したにも関わらず、僕は約束の日から二日も遅れて戻ってきた。忘れていたわけではなくて、仕方なかったんだ。

忘れるはずがない。向こうで強そうな意志を瞳に宿した少女に出会ったとき、とっさに思い出したのはなまえちゃんのことだったというのに。

なまえちゃんは怒らなかった。それどころか、ありがとうございます、とにっこり笑ってくれた。…でもその笑顔に嘘があることも、僕は気付いていた。

そして、そんな笑顔は見たくない、と思う自分がいることにも、とっくに気付いていた。

だからこそ、負けたくなかった。自分がチャンピオンであるかぎり、彼女はまた必ず僕に挑戦するために会いに来ると分かっていたから。


「ダイゴ、さん…」


恐る恐るこちらに歩み寄ってくるなまえちゃんと同じくらい僕も呆然としていたけど、あわててそれを振り払う。いつか彼女に、ダイゴさんは大人ですね、と言われたことがある。だから僕は、彼女の前では大人でありたいんだ。我ながら笑ってしまう。


「おめでとう、なまえちゃん。本当に強くなったね」


僕が笑みと共に言うと、なまえちゃんはなぜか泣きそうに顔を歪めた。


「わた、し…勝っちゃったんです、か…」
「そうだよ。……どうしたんだい?今日からきみがホウエン地方の新しいチャンピオ」
「違います!チャンピオンはダイゴさんじゃなきゃ!」


ついに彼女の目からは堪えきれない感情がこぼれだす。僕は驚いて口をつぐんだ。それは明らかに嬉し涙ではなくて、僕はみっともなくも狼狽する。


「なまえちゃん……?」
「だって、私は、……っ」


言葉に詰まったのか、途方に暮れたように、なまえちゃんは僕を見た。いつも強い意志の宿る瞳が涙で濡れて、どきりとするほどの熱を帯びて見えた。

知らずに僕は、なまえちゃんの言わんとしていることを掴み取った気がした。……ああ…、なんだ。僕はたまらずに微笑んだ。


「ダイゴさ……!!?」
「ねぇなまえちゃん、どうしてチャンピオンは僕じゃなきゃいけないの?」


同じ気持ち、なんじゃないか。結局は。分かれば強気に出れる、いくらでも。
泣き濡れるなまえちゃんを腕のなかに抱き留めれば、やはりというか、彼女は抵抗ひとつせずに固まってる。

耳元でささやくように尋ねれば小さく跳ねる身体に、僕の笑みは深くなる。


「……ずるいです、ダイゴさん」
「何でもいいよ。だから答えてほしいな」


答えなんて本当は、分かっているけど。

視界の端で、起き上がったメタグロスと出たままのキュウコンが呆れ返っているのが見えたけど、見ないふりをした。

Thanks;揺らぎ
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