novel | ナノ

夏休み企画より抜粋




ああくそ。何なんだよ、この前のは。

ふんわりと漂ってくる花の香に舌打ちをした。公園になんて来るんじゃなかった。

座ってるベンチまで転がってきたボールを見るとでもなく見やったときに、それを取りに来た子供に、意味もなく謝られてまたイライラした。

この前、っていうのはオレが一大決心して、なまえ…っていう、まぁなんだ、その…偶然知り合った、別になんともないやつに、別に何でもないことを伝えようとしたときのことだ。うん。

せっかく人が一大決心して、(別に指が震えてなんていなかったが!)なまえの番号をプッシュしてやったっていうのに、肝心なところでぶつり、と通信は途絶えた。

あいつの、小さく息を呑む声だけが、耳にこびりついていた(別に可愛いなんて、これっぽっちも思わないが)。

焦って何度かかけなおしたもののつながらず、拒絶されたのかと思ってかなり落ち込んだところで、ポケギアが鳴りはじめた。


『ごめんね、ポケギアの電池が切れちゃって…』


びっくりした。こいつ、リーグに行くって言っていたくせに。

すっかりあきらめていたオレに、決心なんて残ってるはずもない。

オレが適当にごまかすと、なまえは暇だったのか、今まで話したこともないどうでもい話を長々と話して(別に嬉しくなんかなかった!)、電話は切れた。

それ以来オレは釈然としない気分を持て余して、ずっとイライラしている。なまえはあれきり、また電話してこない。人が、せっかく番号を教えてやったって、電話もしてこないようなやつだから、仕方ないのかもしれないが。

……待っていても、ダメなのか。オレが電話してやらないと、…ってこと、だよな。


「……フン」


仕方ねぇやつだ、とポケギアを取り出したときだった。

「シルバーくん」
「!!?」
「やっぱりシルバーくんだ!こんにちは、公園で何してるの?」
「……別に」
「そうなの?」


急に後ろから現れたのは、当のなまえだった。……無邪気に笑いやがって…。

ぴょん、となまえはオレの隣に座った。そうしてまた、オレに笑いかける。


「私、これからお昼なんだ!」


意味ありげな言葉を、いかにも純粋に言われて戸惑う。それは…つまり、誘えと?考えあぐねていたら、なまえはだから、と続けた。


「あの、シルバーくんも一緒に来ない?ヒビキとも待ち合わせてるんだ!」


思わずなまえを凝視すれば、なんだか顔が真っ赤だった。…わけが分からない。なんであいつがいるときにオレを呼ぶ?


「……だめ?」
「し、仕方ないな」
「やったぁ、ありがとう!やっぱりみんなで食べたほうが美味しいもんね!」


行こ、と腕を引っ張ってくるのににやけないよう…じゃなくてイライラしながら、オレはまた釈然としない気持ちを感じた。

……別に、嬉しくなんて、…ない。

Thanks;揺らぎ
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