novel | ナノ

夏休み企画より抜粋



ハヤトはこの炎天下の中、木陰のベンチで、私の隣に座って、それこそ延々と話している。

ああ、アイスが溶ける。私はさっさと食べ切ろうと必死だった。買ってきたばっかりのアイスは、もうてろんと夏バテしてる。


「父上が言うには、空は鳥ポケモンが流した涙で青く染まったらしい」
「……ふぅん」
「鳥ポケモンは偉大だと、父上はよく言っていた。知ってるか?エンジュに伝わる神も、鳥ポケモンだと言われているんだ」
「あー、そういえば」


ぺろり、と垂れてきたソフトクリームを舌でうまくからめとる。ん、おいしい。夏はやっぱりアイスに限る。


「な、聞いたことあるだろう?」
「うん、見たことある」
「……」
「……」


ようやくハヤトは静かになった。またつぅ、とアイスが指を伝ったので、またそこから上にかけて舌に絡めながら、ピンクのイチゴの香りを味わう。


「ほ、本当か?」
「ん〜?」
「だからその、伝説の鳥ポケモンに会ったというのは」
「うん。あ、ハヤトのソフトもうでろでろじゃん!早く食べないと!」


もったいない。何も考えないまま、私はハヤトの手首をつかんで、どろどろになっちゃってる指から、バニラ味のソフト本体まで、ぺろりときれいになめとった。

とたんにびくり、としたハヤトにびっくりして口を離した私に、ハヤトはなんかめちゃめちゃ怒ってたけど、それどころじゃない。ああほらまた溶けてるっ!


「なまえっ!」
「ごめんごめん、横取りしよーとしたわけじゃなくて」
「そういうことじゃない!」
「それに、ハヤトの手が汚れちゃったと思って。早く食べたほうが良いよ」
「だからそうじゃなくて!いいかなまえ、お前は女の子なんだから…」
「あぁっ、早く、早く食べてハヤト!溶けるっ、たれるっ、溶けるたれるっ」
「………」


私が騒いでるのに何も言わないハヤトに、ようやく私が気付いたときにはもう遅くて。

次の瞬間には、口のなかにどろりとした生暖かいバニラ味。と、やわらかい感触を同時に感じた。

ぱちくりする私の前で、舌でくちびるをなめながら、ハヤトはにやりと笑った。その手元にはバニラのソフトクリーム。
私のはもうないし、甘酸っぱいイチゴ味だったから…ってことは。はっ。ええ、ままままさか!?


「……な…!?」
「美味いだろ、バニラも」

状況をとっさに理解して真っ赤になるた私と引き替えに、アイスに取りかかったハヤトは冷静沈着だった。

Thanks;揺らぎ
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