novel | ナノ

夏休み企画より抜粋




挑戦するようになってから、分かったこと。ダイゴさんは、すごく強い。


「なまえちゃん。次はいつ来る予定?」


私がダイゴさんに負けるのは、これでもう10回目。情けないし腑甲斐ない、記念すべき10回目だ

トレーナーとじゃなくて野生ポケモンとのバトルで鍛えてたから、そろそろお金も尽きそうなくらい、凄い勢いで私は負け続けている。

ダイゴさんは私が負けるたび、楽しかったとか、前よりも強くなったね、とか言ってくれるけど、今日は違った。

傷ついた仲間たちに、ひとまずげんきのかけらをあげていた私は、その言葉につい、気まずさや悔しさを忘れて、彼を見上げた。どうしてなんて決まってる、初めて聞いた言葉だったから。


「え…どういう意味ですか?」
「うん、そろそろまた新しい石を探しに行こうと思ってて。だからなまえちゃんの予定を聞いて、遠出の計画を立てようかなって思うんだ」


なるほど、彼はしばらくリーグを離れちゃうんだ。
私がダイゴさんに会ったのだってリーグではないんだからそれは当たり前のことなのに、なんだかひどく悲しい。

思わず彼から目を背けた私を、げんきのかけらで少し元気になったジュカインが、うっすらと開けた目で見た。


「…じゃあ、ダイゴさんはしばらくいないんですね…」


思わずつぶやいてから、はっとした。何私、出すぎた真似を…。

あわてて彼に目を戻した。
一瞬の間にぐちゃぐちゃに入り乱れた気持ちが胸を駆けた。違う、違う、違うんですダイゴさん。別に私はそういう意味で言ったんじゃなくて――…


「寂しい?」


私の視線の先で、現チャンピオンはきれいに笑った。
卑怯だ、と思った。私の気持ちを知らないにしても、あのつぶやきにこんな質問と、こんな表情。

きっとダイゴさんは、何も言えなくなった私の沈黙に肯定を見つけてしまったんだ。


「だいじょうぶだよ、きみが来る予定の日には、帰ってくるから。必ずリーグにいて、きみを待ってるよ」


ああ、ずるい。リーグチャンピオンっていうのはこんなにも、きらきら輝いてるものなのかな。


「……は、はい」


彼が歩いた後にできる道を、彼自身がこんなにも明るく照らすから、私は追わずにはいられないんだ。

そうして私がうなずけば、彼はまた嬉しそうに笑った。


Thanks;揺らぎ
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