novel | ナノ

夏休み企画より抜粋



『………』
「し、シルバー…くん…?」
『何だよ』


いえあの、何だよはこちらのセリフなんですけど…!とは言いだせずに、結局私も、ポケギアを耳に押しつけたまま、口をつぐむ。

シルバーくんから唐突なコールを受けてから、かれこれ数分…いや数十分、はたまた数百分経っただろうか。

まぁ電話なんて唐突にかかってくるのは当たり前なんだけど、電話番号聞かれたときも唐突だったし、何より交換してから一度だって彼からの電話はなかったから、ちょっとびっくりしただけで。

それよりもこの沈黙が。沈黙が。どうして電話をかけてきたんだろう?用事があったわけじゃないのかな。


「……」
『……』
「えー、っと……あの、シルバーくん?」
『……だから』


また何だよ、と続きそうで埒が開かない。私はこれから波乗りして、リーグに挑みに行くつもりなのに、これじゃあ先へすすめない。

シルバーくんから電話してくれたのは嬉しい。不思議なくらい、すごく嬉しい。けど、用件がないなら切らなくちゃ。


「あの、あのね、電話すごく嬉しいんだけど、私これからリーグに行かなきゃいけないから、急用でないならかけ直」
『あ、おいちょっと待て!』
「! な、何?」


珍しく焦ったような、切羽詰まったようなシルバーくんにどっきりして、思わず持ちなおした受話器の向こうで、震えるような、今までになかった少しの沈黙。

完全に、今までと空気が変わった。とたんに私は理解した。何が起きるのか――…。つい、私は身構えた。

そして。


『あの、さ。オレ、お前が好』


プツッ……。

………え。

………え?

何、が起きたの? ポケギア耳からを離すと、真っ暗なディスプレイが目に飛び込んできた。

電源を入れ直そうとボタンを長押しした私は、続いてぼんやりと表示された電池マークにすべてを悟り、すっかり脱力してしまった。


「……最悪、だ…」


中途半端に、ひどく高鳴った心音を抱えたまま、私は結局、トージョウの滝から引き返すことにした。

Thanks;揺らぎ
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