かつん、かつん。 スニーカーの先で蹴飛ばしたちいさな石を追うようにだらだら歩く。 このまま家に帰ったってどうせすることはないし、せっかく出てきたんだから何かしたいけど、特にやることも見つからない。 こんな日に限ってミシロタウンの空はまっ青で、落とした視線の先にある私の影ぼうしがぐったり私を見返してくる。 かつん、かつ、カチッ! 最後に大きく蹴り飛ばした小石はころころ転がって、それを追いかけた私の視線ごと、とつぜん現れたランニングシューズにがっちりと踏みつけられた。 びっくりして顔を上げて、上げてから靴で判断すべきだったことに気がついて後悔した。どっきりと高鳴るものに気づかないふりをする。 「いつ見てもつまんなそうな顔してるよな、なまえ」 「……ユウキ」 いつの間にか抜かされた背に、いつの間にか整っていたきれいな顔立ちが、この土地に似合わないぜったいれいどの冷気を持ってそこにあった。 子どものころは、いっしょになってホウエンのちから強い日差しをあびて真っ黒になったはずなのに、あの面影はどこに行ったっていうんだろう。 ユウキと顔をあわせるたびに沸き上がりそうになるいまいましい感情を抑えて、私は視線を落とした。 「…べつに、暇なわけじゃないよ」 「…ふうん」 私のうそ八百をお見通しだとでも言うように間をとるユウキに悔しくなって、私はまたうそを重ねる。 「言っとくけど本当だからね。ちょうどこれからカナズミに行くところだったし」 「カナズミ…?何しに?」 「…っ、おつかい!文句でもあるの?」 もったいぶったゆっくりした話しかたにイライラして、思わず吐き捨てるように声を荒げた。拍子に落とした視線があがってしまったみたいで、ほんの一瞬だけ、ユウキのなつかしい表情が見えた気がした。 だけどそれはまばたきするよりも一瞬で、もしかすると夢だったのかもしれない。 私の視線をとらえて、こちらが後ずさりたくなるようないつもの笑みを浮かべたユウキは、実際後ずさりした私にまたぐいっと一歩近づいた。 言わずもがな、私の足よりもユウキの足のほうが断然長いわけで、さっきよりも近くなった距離にどぎまぎする自分が余計に悔しい。 悔しいから、早くなる心音も、熱くなるほおもぜんぶ無視して、今度は視線だけは逸らさないようにユウキをにらみつけた。…我ながら、かわいくない。 小馬鹿にしたような色をうかべたままのユウキの目を、こんなにしっかり見たのは久しぶりかもしれなかった。 「……オレが文句なんか言うと思うんだな」 「え…何…言わないの?」 「さあ?」 てっきりもっとキツいことばが返ってくると思ったのに、ユウキは何故だかことばに迷ったようにしばらく黙って、それから意味不明なことを言った。 肩をすくめてみせる大人っぽい仕草も、意外性にかき消されてしまう。 びっくりして目を丸くしたら、…信じられないことに、ユウキは私から目を逸らした。 「で、おつかいってデボンか?」 「え…あ、うん」 「乗ってけば」 こちらを振り返りもせずに、ユウキは宙にボールを投げる。電子音とともにとびだしてきた立派なオオスバメは、ユウキと私とを見て、うれしそうに両翼をひろげた。 何が起こってるのか理解できない。これは本当に、あの意地悪く成長したはずのユウキ? 返事をしない私に焦れたのか、見つめていた先の髪がさらりと流れて、ぎゅっと眉根をよせたユウキの顔が見える。 「ほら。お前ののろまな足じゃ三時間かかるだろ」 「さっ…そんなにかからないよ!」 「トウカの森で迷子になったくせに」 「昔の話でしょ?」 つかまれてひっぱられた手首が、背中にかすかに伝わる体温が、そして顔が熱い。なんでホウエンの太陽はこんなにやっきになってるんだろう。 背後でくすくす笑うユウキの声が耳もと近くで聞こえて、私はさらに太陽に悪態をつくところだった。 「オオスバメ、頼む」 「すっばー!」 ふわり、と浮遊感。とっさに落ちそうになった私のからだを支えてくれる腕がやさしいなんて、今日はいったいどんな月回りなんだかわからない。 だけど現金な私は性懲りもなく、暇でよかったなんて思うんだ。 …匿名さんに捧げます!
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